起業家が新しいビジネスアイデアを思いつき、それを実行に移したところ、大変な収益性の高いビジネスとなると、多くの場合にすぐに競合する他社も参入してくることになります。そのため、ビジネスが立ち上がったら、その直後からの競合との差別化を行っていかなければならなくなります。
競合に対抗して有利にビジネスを進めていくためには、一般的な対抗策としては、ここまでに述べてきたような「商品・サービスの品質」の問題や「組織内の人的リソース」等の問題を常に改善を行いながら解決していくことが必要になります。
しかし、近年では収益性の高いビジネスは「知的生産」によって構築することが多くなっています。とくに、「ヒト、カネ、モノ」などのリソースが少ない起業家が、これからビジネスを始めようとする際には、「知的財産権(Intellectual Property)」をどのように利用してビジネスを展開・保護していくことができるのか、ということは絶対に知っておいたほうがよいことといえるでしょう。
「知的財産権」に関しての適切な知識がない場合、本来は自分自身が始めたビジネスであるにも関わらず、「特許」や「商標」などを取得していなかったために、他社に参入されてしまうこともあるばかりか、それを模倣した他者のほうが特許を取得してしまい、自分自身がそのビジネスを行うことができなくなってしまうようなことさえ起こりうるのです。
アメリカでは、知的財産権に関しての認識は非常に高く、これを侵害してしまうと、大きな訴訟・賠償リスクを背負うことになります。一方で、規模が小さな起業家にとっては、ビジネスを保護するための強力なツールとして利用できるものであるため、起業家研修の中でもかなり丁寧に説明される部分となります。
日本を含めた東アジアの国々(日本、中国、韓国)では、この「知的財産権」に関しての認識が、アメリカに比べると低いとされています。特に中国では、ソフトウェアやDVDなどのコンテンツの違法コピーや、特許を無視した模倣ビジネスなどが横行する状況が国際問題とさえなっています。
日本は、中国に比べれば、知的財産権に関しての認識は高いとは言えるかも知れませんが、それでも「起業家にとって」は有利なツールとして利用はしにくい状況ではあるといえるでしょう。なぜなら、日本では特許取得や訴訟の費用が少々高いことや、訴訟によって有利な判断となっても、それほど金銭的に大きなリターンを得られることが少ないからです。
日本で起業して、日本の大企業を相手にしたビジネスを行おうとするときには、特に注意が必要になります。なぜなら、大企業が小規模な事業者と取引をする際には、「下請け」的な関係を強いることが多く、大企業側から提示される契約条件に「知的財産権の放棄」「著作者人格権の放棄」などの条項が含まれていることが多くなるからです。
「知的財産権」の正しい認識による運用を怠ると、事業の発展に大きな障害となりうる事柄でもあるので、正しい認識を持っておくことは必要なことといえます。