起業家がビジネスをスタートさせて、それがうまくいきかけている初期の段階で最も起こりやすい問題は、顧客に提供する商品・サービスそのものの「品質」に起因する問題です。
起業家が新規に市場に参入して、「ヒト、カネ、モノ」などのあらゆるリソースが少ない段階で「商品の生産」「サービスの提供」などを属人的な技能(勘、経験)で行っている場合に、顧客に「提供される価値」が安定しにくくなります。
事業が属人的に「専門職的なプロセス」で行われると、恒常的に商品やサービスの品質の問題を抱え、その問題を繰り返す可能性が高くなります。そのため、これまでの章でも何度も述べてきたとおり、商品・サービスの提供の様々な要素について「数値化」「マニュアル化」などを行いながら、事業全体を「システム化」させていくことによって、品質の維持・安定を目指していくことになります。
事業の初期の段階では、製品やサービスの計画段階でしっかりとした計画を立て、それに基づいて提供している(と起業家自身が思っている)場合であっても、経験の蓄積が少ないため、品質に関しての問題は発生しやすくなります。たとえば、
・商品の製造段階での不良率が非常に高い(原価や返品率が高い)
・サービスのマニュアル通りに作業を行っても顧客のサービスの満足度が低い(顧客に定着してもらえない)
・マニュアルの説明不足で想定しない使用のされかたをする(顧客に被害が起こった場合の訴訟リスク)
などの問題が多く発生します。
商品やサービスの品質に関する問題は、事業が発展する過程で常に発生していくことであるので、時々の状況に合わせて、データを収集、業務プロセスの改善・マニュアルの整備、システム化を常に行っていくことが必要になります。
業務プロセスの「カイゼン」という言葉は、トヨタの生産システムの改善活動などがMBAのケーススタディなどでも利用されることが多いので、ビジネスの世界ではそのまま英語でも通用する言葉でもあります。「アントレプレナー的なプロセス(事業化のプロセス)」とは、日本語で言うところの「恒常的な業務プロセスの改善活動」がその大部分を占めると考えてもよいでしょう。
起業家が事業を行うにあったって、直接的に顧客に提供される「商品・サービスの品質」は、常にその存続を支えるための基盤となるものです。そのため、商品・サービスの品質の維持・向上のための継続的な改善活動は、「事業を始める最初の段階」から「事業を行っている間中」、常に行っていくことがらとなります。