価格戦略







 起業家が、事業に新たに参入していくときに、自分が提供する商品・サービスを「いくらで提供するか?」ということは、事業戦略上も極めて重要なことがらになります。

 当然のことながら、「価格を上げる」ということは、顧客に購入してもらえた際には、「利幅が増える」ということになりますが、反面顧客が「購入する」という決断をしにくくなります。逆に「価格を下げる」ということは、顧客が「購入する」という判断をしやすくなりますが、その反面「利幅が下がる」というデメリットを抱えることになります。

 「価格」は顧客に対して、きわめてわかりやすく定量的に提示され、かつ提供する側にとっても操作しやすいものです。そのため、多くのスモールビジネスでは「価格を安くする」ことによって、競合との差別化を図ろうとします。しかし、それがために「利幅の少ないビジネス」を「専門職的なプロセス」で行っていかなければならなくなるということが多く起こってしまいます。

「顧客が自分から購入しない」理由には、単に「価格が高い」からという理由だけでなく、

「提供している会社の信用が低いから」
「価値が分からない(伝わっていない)から」
「自分にとって優先度が高い機能やサービスが欠けているから」
「ほしいけれども今は必要ないから」
「本当に必要な時に近くにいなかった(買う方法がなかった)から」
「そもそも需要が少なく市場が小さいから」
「自分が提供していることを知らなかったから」

など、「価格が高い」以外のさまざまな要因があるはずなのです。

 特に近年のビジネス環境の中では、「価格が安い」という理由だけで、顧客がどんどん買ってくれるような商品・サービスというのは、ほとんどあり得ないといってもよいでしょう。

 顧客が「価格を比較して、安いほうを買う」という行動をとれるのは、

「提供される商品・サービスがほとんど同じ(違いが分からない)」
「購入する際に、値段が比較できる余裕がある(緊急性がない)」

というような状況です。このような市場には、起業家はむしろ「参入しない」という選択をすべきなのです。

 起業家が新たにビジネスに参入する際、提供する商品・サービスの価格は、この章でここまで述べてきた、「商品・サービスの定義」「市場分析」「マーケティング戦略」など様々な要因をしっかりと検討したうえで、最後に「利益を最大化できる価格」を慎重に決定すべき事柄といえます。何も考えずに、「価格を下げる」ということを最初に行ってしまう場合は、事業に失敗する確率が非常に高くなります。

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