商品・サービス自体は、それほど他者との違いはなく、顧客への告知・接触の方法なども特に目新しいものではないにもかかわらず、「広告のコピー」や「商品・サービスのネーミング(名前)」、「キャラクター」を用いたアピールなどといった、「付加的な情報」がついていることによって、顧客が大きな価値を見出し、購入に結びつくということも多くあります。
近年では、社会的に高度に大量生産の仕組みなどが高度に発達していますので、単に「モノを作る」ということでは、差別化しにくい時代といわれており、ビジネスにおけるそういった「情報による付加価値」戦略はより重要になってきています。
このことは、スタートアップ直後の起業家にとっても、大変に重要なことといえます。通常、起業家は「商品・サービスを開発するための生産設備」や「蓄積されたノウハウ」などは、既存の大手の他者と比べると少ない状況でスタートします。そのため、競合戦略上も既存他者がまだ行ったことのないようなコンセプトで差別化して、顧客により高い付加価値を見出してもらえるような戦略を考えて展開していくことのほうが、効果的で望ましい戦略といえるでしょう。
こういった戦略を考える際に重要なことは、「顧客が期待できる価値」をきわめて簡潔に説明するものであるほうが望ましいとされています。先に説明したとおり、顧客が多い市場とは、「緊急」「必要」「痛み」に関連したビジネスなのですが、参入するビジネスが何かしらの問題を解決するような出張サービスであれば、「○○レスキュー」というようなネーミングを行うことで、顧客は何を期待できるのかが即座にイメージできるようになります。
ビジネスのスタートアップに成功し、顧客からの信頼が蓄積していくと、自分に対してのイメージが固まっていく「ブランド化」が起こります。その意味では、ほとんどの大手企業は、多かれ少なかれこの「ブランド化」に成功しています。「ブランド化に成功する」ということは、顧客に対して「期待できる価値が即座に伝わる(説明の必要がない)」ということとほとんど同じ意味といえるでしょう。
たとえば、「マクドナルド」や「スターバックス」という名前を聞いたとき、多くの人はその会社から「期待できる価値」は即座にイメージできます。しかし、彼らが提供しているのは、「世界一おいしい商品」でもなければ、「世界一安い商品」でもありません。そのブランド名からは、「この程度の値段でこの程度のおいしさのものが手に入る」という「その会社から期待できる価値」がイメージできるのです。
例に挙げたような有名な大手企業の場合には、「ハンバーガー」や「コーヒー」という直接的な言葉さえなくても、「期待できる価値」はイメージできます。しかし、スタートアップ直後の事業の場合には、知名度も全くないため「期待できる価値」自体が分からない場合がほとんどです。その場合には参入戦略上、コピーライティング、ネーミング、キャラクター戦略などは特に知恵を出して考えていくべき項目といえるでしょう。