この章では、起業家がビジネスを始める際に作成するビジネスプランに含めるべきことを解説しています。ビジネスプランで最初のほうに記載する順番としては、「商品・サービスの定義」を書いた後で「市場分析(マーケット調査)」の順に書くことを、「書き方として」推奨しています。これは、ビジネスプランを読む人の側から見て、この順番になっているほうが読みやすいことが多いからです。
一方で、起業家が事業を開発する際には、考える順番は逆であることのほうが多いようです。つまり、「市場分析」を行った後で、「商品・サービスを考える」ということが多いということです。
アメリカ国内でこれまでにいくつもの事業を立ち上げ、それら事業の売却に成功した経験のある起業家のインタビューなどで時々言及されることに、
「起業家(アントレプレナー)にとって、商品・サービスを提供することは必要だが、実は重要ではない」
というようなことがあります。
事業を複数立ち上げて、それらを売却できる状態に育てたことがある起業家は、事業を立ち上げる際に「自分ができること」や「やりたいこと」で事業を始めたのではない場合もたくさんあるようです。自分の身近にある日常を注意深く観察している中で「社会(顧客)にとって価値のあること」を見出し、それを事業化することで成功したのだ、というような意味で「商品・サービスは重要ではない」というような言及がされることがあるのです。
第二章でも説明したとおり、ビジネスのスタートアップには、「顧客がいること」が必要です。そして、「起業家がやりたいこと」や「起業家がやれること」「起業家が好きなこと」というのは、顧客にとってはそれほど重要なことではありません。むしろ、全く意味のないことである場合のほうが多いです。顧客にとって重要なことは、
「起業家が提供する商品・サービスが自分にとってお金をはらう価値があるかどうか」
なのです。
そのため、起業家は何気ない日常の注意深い観察によって、まず「顧客がいる市場」を見出し、その市場に対して適していると思われる商品・サービスを開発していくというという順番のほうが「成功するビジネス」は考えやすくなります。「今現在自分ができること」に固執してそれを起点に考えるのではなく、「どうやったら自分にできるようになるか」を考える思考法のほうが起業家にとって必要な考え方といえます。
商品・サービスを決めてしまってから、市場の分析を始めてしまうと、その商品・サービスには「全く客がいない市場」で、必然的に失敗してしまうビジネスになってしまうことも多いのです。その意味で、
アントレプレナーにとって、商品・サービスは重要ではない
のです。