起業家が、商品・サービスを決め、その市場に参入したときに、「全く競合がいない」という状況はほとんどあり得ません。参入した市場に本当に「全く競合がいない」場合には、それは「顧客が全くいない」市場である可能性が高く、その場合はビジネスが成立しないので、再度ビジネスプランをたてなおしていく必要が出てきます。収益性が高い商品・サービスの市場には、必ずたくさんの人が参入してこようとしてくるものです。もし、収益性が高いビジネスを今自分が行っているのであれば、その周囲には必ず自分とまったく同じではないにしても、間接的に競合になっているということは多くあります。
たとえば、ある人がハンバーガーショップで起業をする場合には、直接的な競合としてはマクドナルドのようなハンバーガーでチェーン販売している会社が競合と考えられます。しかし、顧客はいつもハンバーガーばかりを食べるわけではありません。時にはフライドチキンや宅配ピザを食べたくなることもあるでしょうし、和食や中華料理を食べたくなることもあるわけです。そのため、ハンバーガーショップで起業する人の競合相手はハンバーガー以外の飲食店とも競争をしなければならないといえます。
他に、文房具店や薬局、タバコ屋をやるような場合にも、直接的に全く同業者が近辺にいなかったとしても、それらの商品の需要は実はコンビニエンスストアというライバルの出現よって地域の需要がまかなわれてしまうとしたら、きわめて重大な経営上の危機を迎えることになります。
そのため、ある市場に参入しようとする際には、自分とまったく同じ業態で事業を行っている直接的な競合相手ばかりではなく、一見異業種のように見えるけれども、自分の扱っている商品・サービスの顧客を間接的に奪ってしまう可能性がある相手も想定して、分析していくことになります。分析する内容としては、「現在の市場規模及びシェア(割合)」「競合他社それぞれが持っている強み・弱み」「市場の将来性やシェアの変化の予測」等になります。
競合他社の分析ができたら、そこから他者の特徴と比較してみての「自分自身が差別化できる部分」を考えていくことになります。自分たちが提供する商品・サービスに独自技術(秘伝)や知的財産権で保護できるようなもの(特許や意匠権)を持っているような場合には、それが強みと言えるでしょう。
もし、直接的に知的財産権などがないような場合でも、「必ずいる競合他社」ではなく「顧客がわざわざ自分から買ってくれる理由」というのは考えておく必要があります。これは論理的に厳密である必要はありませんが、できるだけ合理的であったほうがよいことには間違いないでしょう。なぜなら、「何故だかわからないけど売れている」という状況は、その「何故だかわからない状況」がいつの間にか変化してしまったときに、「何故だかわからないけれども」全く顧客がいなくなってしまって、ビジネスが破たんしてしまうリスクを負うことになるからです。つまり、起業家が成功し続けるためには、「顧客が自分から買ってくれる理由」を常に、合理的に説明できる必要があるのです。