第4章 実行可能性(フィージビリティ)の確認・ビジネスプラン作成







 起業してある人がビジネスを始めるにあたって、ビジネスプランを綿密に書いてから事業を始める必要はありません。ただし、起業するにあたり、考えておいたほうがよい事柄というのは多くあり、それらを整理するためにも事前にビジネスプランは作成しておいたほうがよいものといえます。先に述べたとおり、アメリカの起業家研修ではビジネスをスタートさせるにあたり、その実現可能性(フィージビリティ)の確認を重視しながら、ビジネスプランを作成することを重視していくことになります。

 起業をするためのビジネスプランを作成するにあたって考えるべき大項目としては、たとえば以下のようなものになります。

・イントロダクション・背景
・ビジネスコンセプト(商品・サービスの説明)
・業界・マーケット分析
・顧客獲得方法・マーケティング戦略
・オペレーション・テクノロジー・経営戦略
・経営陣・チーム・組織化計画
・財務計画
・出口計画(EXIT PLAN)

 これらの大項目中、新規にビジネスをスタートさせるにあたって、絶対に必要なものは、「ビジネスコンセプト」と「顧客獲得方法・マーケティング戦略」です。そのため、アメリカの起業家研修の中では、この部分を特に丁寧にやっていくことになります。

 ビジネススタートアップに成功してから、起業家は「専門職的なプロセス」と「アントレプレナー的プロセス」にわかれていくことを説明しました。「専門職的なプロセス」に進む人の多くは、ビジネスプランで考えておいたほうがよいこれらの項目のうち、前半の部分(ビジネスコンセプト~マーケティング戦略)までを考えることが得意でも、後半の部分(オペレーション~出口計画)までを、あまり考えたことがないというようなことが多いようです。世の中には「ビジネスをスタートさせるのが得意な人」というのもたくさんいますが、その後、うまくやればアントレプレナー的なプロセスを経て事業を合理的に拡大できる可能性があるにも関わらず、結局のところ「専門職的なプロセス」にとどまってしまう人も多いのです。

起業をする際には、できればビジネスを始める前の段階から、始めた事業をどのように合理的に組織化して、どのように売却可能な状態に持っていけるかということを常に考えてビジネスを行ったほうが、大きな成功を勝ち取る可能性も高くなります。

 「ビジネスプラン」や「事業計画書」といった類のものは、起業家だけが作るものではなく、むしろ既存の大企業などで、より頻繁に作成されるものです。ただし、起業家が作成するビジネスプランと既存の大企業などで作成されるビジネスプランでは、記載される順番、重視する項目が少し違ってきます。

 大企業の経営企画室などで作成される事業計画とは、前年の売り上げ等を基にして今期に期待できる売り上げなどを予測して、事業計画を立てていくことになります。扱っている製品・サービス等も既知のものであるという前提を持って進められることになりやすく、その意味では「過去からの延長線上」で事業の計画を立てていくことになります。先にあげた大項目の中では、後半に記載した事柄のほうが先に記載されることが多くなります。

 これに対して、起業の際に作成するビジネスプランでは、多くの場合には「過去の蓄積」というのがほぼ全くない状況(最初の時点では「ヒト、カネ、モノ」などが全くない状況)から、未来を志向したプランを作成することになります。大企業など既存の企業内では、「企画書」と呼ばれるものと性質が近いものといえるでしょう。

 「起業家は未来志向で考える」といっても、実現性が低い絵空事のようなプランで物事を進めてもよいというわけではありません。ベンチャーキャピタルなどの新規事業のスタートアップのための投資業務を行った経験のある人などの多くのコメントによれば、投資を求める起業家が提出するビジネスプランの多くが、全く現実的な実行可能性(フィージビリティ)を検証していないものばかりで、そういった実効性のないプランを排除することが仕事量のうちの多くを占めてしまうそうです。

 何度も繰り返しになりますが、ビジネスを開始するためには、「顧客がいること」が絶対に必要で、「顧客がいること」についての明確な根拠がビジネスプランには必要になります。投資家などに資金の提供を求めるような場合には、このことがより重要になります。

 そのため、起業家が作成するビジネスプランをよりしっかりとしたものにするためには、先に述べた大項目のうちの前半の部分である

・ビジネスコンセプト(商品・サービスの説明)
・業界・マーケット分析
・顧客獲得方法・マーケティング戦略

が特にしっかりと考えられていて、すぐにでも実行可能な状態になっていることが望ましいことといえます。

 起業家が作成するビジネスプランでは、既存の企業などと比べれば未来志向のビジネスプランを作っていくことになりますが、反面、過去からの蓄積が少ない分、そのプランが実現しようとする未来への根拠には、非常に強い理由が求められることを理解しておく必要はあるでしょう。

 ビジネスを始めるにあたって、起業家はビジネスプランを全く作らないよりも、作成したほうがよいことには間違いありません。ただし、絶対に書かなければならないものでもありません。それではなぜ、ビジネスプランを書いたほうがよいのでしょうか?それを簡単に考えてみることにしましょう。
ビジネスプランを作成する目的にはたとえば以下のようなものがあります。

 ・自分のため
 自分自身がビジネスを始めるにあたって、その実現性を確認する。ビジネスプランという形で書き出すことで、頭の中を整理する。

 ・顧客獲得のため
 提供する商品・サービスはある程度決まっているものの、具体的な顧客が見えていないような場合の計画を立てる。マーケティングプランを作成し、実行のためのガイドラインにする。

 ・投資家への説明のため(事業資金獲得のため)
 起業直後の事業資金が不足しているような場合に、投資家への説明のため。

 ・パートナーの募集のため
 事業を行うにあたって、不足しているポジションの確認と、適任者と思われる人に対して事業内容の説明のため

 ビジネスプランを「自分のため」だけに書くのであれば、それほどビジネスプランを丁寧に書く必要はありません。ただ、ビジネスとは必ず他者との関係があって成立するものですので、ビジネスを説明するために書くビジネスプランも、他人に伝わるものである必要があります。

 アメリカの起業家研修では、ビジネスプランの作成は、基本的には「投資家に説明ができる状態にするために書く」ことを前提としています。先に説明したとおり、アメリカの起業家研修での事業の究極の目的とは、「事業を売却できる状態にする(EXITする)」ことです。そのため、事業を始める前に起業家が作成するビジネスプランも、事業を売却する際に買ってくれる相手を意識して最も高く買ってもらえるようなビジネスにするために書くことになるのです。

 ビジネスプランというのは、自分のために書くにしても、投資家向けに書くにしても、実際に収益性の高いビジネスになって初めて、その秀逸さが証明されるものです。そのため、大枠の部分で作成ができれば、その後は実行に移すということが最も重要なこととなります。

 新規にビジネスを始める時、最初に定義しなければならないものは、自分が起業家として「どんな商品・サービス商品を提供するか」ということです。これがない場合には、ビジネスがスタートできません。そのため、まずそれを定義していくことになります。

 日本でもアメリカでも「起業したいなあ」という漠然とした思いを持った人はいつでもたくさんいるのですが、起業したいのに「自分が何を提供して起業するのか?」ということを全く考えていないことも多いようです。そのような状態をいつまでも続けていたとしても起業は絶対に成功できません。起業してビジネスとして成立するためには、まず、提供する商品・サービスを決め、そして顧客を獲得することが絶対条件ですので、本当に起業したいのであれば、自分がどのような価値を顧客に提供することができるのかを常に考えておくべきでしょう。

 起業家がビジネスをスタートする際、一般的には商品(プロダクト)販売のみによるスタートは金銭的なリスクが大きくなります。なぜなら、商品を販売するためには、通常はある程度の在庫や、生産設備を確保してから始めなければならないからです。実績をもとに販売量が予測できる既存事業とは違い、起業直後にはどれくらいの販売量が見込めるかの予測は非常に難しいものです。そのため、もし予測が大幅に外れた場合の損失がきわめて重大になりますので、とれるリスクがどこまでかをしっかりと見極める必要があります。

 起業する場合には、商品販売をメインとしたビジネスアイデアで始める場合でも、できるだけリスクの少ないサービスを絡めた形でのビジネスを考えたほうがよいとはいえるでしょう。

 ただし、専門性が高い(報酬の高い)サービスのみで起業を行う場合には、その後の展開に関して注意が必要になります。なぜなら、専門性の高いサービスというのは、先に述べたように「アントレプレナー的プロセス」には進みにくく、「専門職的なプロセス」にはまり込みやすいからです。起業家自身の選択として、「事業」と「自分自身」が一体化した「専門職的なプロセス」でずっと続けていくのだ、と決めている場合にはそれでも構わないわけですが、その場合には事業は売却できる状態にはなりにくく、それほど他人を意識したビジネスプランを書く必要もありませんので、せっかくビジネスプランを書くのであれば、できるだけ「アントレプレナー的なプロセス」を意識すべきでしょう。

 商品の販売・サービスの提供のどちらでビジネスをスタートさせるにしても、その「提供される価値」は、できるだけわかりやすく定義されている必要があります。技術的な専門性が高い人(頭のよい人たち)が書くビジネスプランでは、この部分が学術学会の論文のタイトルのようにきわめて難解に書かれてしまっているケースが多くなります。顧客は難解で自分にどんなメリットがあるかが分からないようなものに対してお金を払うことはほとんどありません。そのため、ここで定義される商品・サービスはできるだけ多くの人たちにその価値が伝わるように記述されている必要があるのです。伝わらない場合には、悪いのは伝わるように説明をしていない起業家自身ということになります。

 起業する際に自分が提供する商品またはサービスが決まったとしたら、それを事業として提供することで達成したい社会的な目的、ミッションを考えてみることが重要です。

 起業する人の目的というのは様々ですが、たとえば、単に「お金を儲けること」や「起業をすること」が目的である場合には、最初に定義した商品やサービスで事業を行う必要性がない場合も多いのです。

 自分が提供する商品、サービスを提供することに対しての社会的な目的意識や使命感が希薄ということは、その事業を続けていく動機づけが低いということでもあります。そのような場合には、往々にして事業を続けていく動機も持続しにくくなりますので、何かしらの困難が発生した場合に、それを乗り切ろうという気力も発生しにくくなり、その結果、失敗しやすいビジネスとなります。

 ただ、起業をする際に、事業の目的や使命を考えることは大切ですが、逆に事業の目的や使命を「考えすぎる」というのもよいことではありません。というのは、「起業をしたい」と考えて行動を起こす人の中には、自分の事業の「目的」や「使命」だけは立派なものの、それを達成するために何を提供していくのか、が全く見えてこないビジネスプランを書く人が多いからです。

 日本人同士のプレゼンテーションでは、「使命」というような言葉が含まれることは、口幅ったくとらえる人が多いためか、あまり多くないかも知れません。しかし、外国人(特にアメリカ人)の行うビジネスプレゼンテーションなどでは、 Mission!! というような抽象的な事柄が情熱的に語られることが多くなります。日本人として初めてそのようなプレゼンテーションを聞くと、その自信に満ちた情熱的な態度に圧倒されてしまうことも多いのですが、実際のところは「具体的に何が言いたいのかが分からない」あるいはもっと端的に「何も具体的なことはいっていない」ということも多くなります。日本人でも外資系企業の人やアメリカに留学経験がある人、大企業や役所などでの間接部門での経験しかない人などは、起業の際にこのような傾向が強いといえるかも知れません。あるいは、すでに事業に成功して、金銭的な余裕がある人などが慈善事業的なことを行なおうとする場合には、このような概念が多く語られることになります。

 起業家が事業を始める際、その目的や使命を考えることは大変重要ですが、顧客が起業家に対してお金を支払うのは、事業の目的や使命に対してではありません。起業家が提供する商品やサービスという「具体的に自分にとって価値のあること」に対してのみ顧客はお金を支払うのです。

 自分が掲げたいと考える目的や使命は、商品やサービスを提供するという日々のビジネスを確実に行っていくことによって達成されていくものです。まずは、より現実的でかつ分かりやすく、商品やサービスを定義し、それを確実に行っていく上で、自分なりの強い目的意識や使命感を本当に持つことができるかを考えていくことになります。

 ビジネスを始める際に、提供する商品・サービスが決まったら、より具体的にそれらの「最も中核となる価値(Core Value)」は何なのかを掘り下げて考えていくことになります。

 この「中核となる価値」を考える際には、エレベーターピッチの中に含められるように

「誰に対して提供するのか?(Why you?)」
「何故、自分がそれを提供することに価値があるのか?(Why Me?)」

ということを考えていくことで、少し考えやすくなります。

 ビジネスを始めたとき、売上は具体的な顧客一人(一社)の積み上げでしかないので、自分の提供する価値が最も受け入れられやすいと思われる具体的な顧客像を考えることになります。
自分が提供する商品・サービスの対象と思われる見込み客が適切に想定されていたとしても、見込み客の側から見て「何故、他人ではなく自分から買うのか?」ということの理由が明確にできている場合には、かなり有利にビジネスがスタートできることになります。

 新たにビジネスをスタートして、特に既存市場に参入していくような場合には、潜在的な顧客の存在が明らかな場合でも、「何故、他人ではなく自分から買うのか?」に明確な根拠がない場合には、見込み客は通常は既存の他者から購入することになります。なぜなら、起業直後の会社には、ビジネスを行う上での信用が全くないからです。

 新規参入の起業家が、既存他者がすでにビジネスを行っている市場に参入する際、自分の「中核となる価値」を明確に提示できない時、顧客を獲得するためのほぼ唯一の手段は「値段を下げること」でしかないことが多くなります。そのようなやり方でしか、ビジネスをスタートせざるを得ない状況であれば、できるなら起業は行わないほうがよいといえます。

 起業家が参入すべき市場としては、「ニッチ(Niche)市場」に参入すべき、と一般的には言われています。「ニッチ(Niche)市場」とは、日本語でいえば「隙間市場」や「特定市場」といった意味で、何かしらの理由で既存他者が参入していない、よりターゲットが絞り込まれた市場のことを言います。

 新規に参入した起業家が、属性を絞りこんでいない不特定多数の広範な市場に対して、「何でもできます!!」といって参入することは、多くの場合「何にもできません」といっていることと同じであって、決して有利な条件で顧客を獲得することはできません。そのため、起業家はある特定の部分で何か「突き抜けられる部分」というのを(でっち上げてでも)探しだし、それを顧客に対してアピールできるようにしておくことが、立ち上がりをスムースにさせることになります。

 起業をするにあたって、どんな商品・サービスを提供するのか、ということが決まったら、その商品やサービスに「市場があるか?」ということを確認していくことになります。ある人に「やりたいこと」があって起業したとしても、その商品・サービスの市場に十分な大きさがない場合には、その事業は破たんしてしまうことになるからです。

 第2章でもしつこく説明をしてきましたが、ビジネスのスタートアップに成功するために絶対に必要なことは「顧客がいること」です。そして、具体的な最初の顧客がどのような人(会社)であるかということは、事業をスタートさせるためにも必要なことであると同時に、その後の方向性を決める事柄となります。

 起業して提供する商品・サービスが決まったとしたら、それらを提供するターゲットとして最もふさわしい人を考え(対象顧客の仮説をたてる)、そして実際にそういう人たちに直接接触を行った上で、本当に「お金を出して買うか」ということについて確認のための調査を行っていく(仮説を検証する)ことになります。

 アメリカの起業家研修では、この部分を相当な時間をかけて参加者全員でインタラクティブに確認をしながら行っていくことが多いようです。二日間以上にわたるトレーニングコースであれば、初日にまず「提供する商品・サービスと対象顧客に関しての仮説の発表」を行い、翌日以降のクラスまでに「対象顧客と思われる人に対しての実際にインタビュー・アンケート調査」を行っておき、その結果を発表し受講者全員で意見を持ち寄り実行可能性を検証する、という形のものが多くなります。

 リサーチに関する用語で、直接的にアンケートや電話調査等を行うことを「Primary Research (一次調査、同義語:field research)」といいます。これに対して、すでに発表されている記事や論文からの調査を「Secondary Research(二次調査 同義語:desk research)」と呼びます。日本語でもマスコミなどで実際に現場に行って取材をして得た情報を「一次情報」と呼ぶことがありますが、その感覚です。

 起業家が、その立ち上げの段階で、「Secondary Research (Desk Research)」のみで実際の行動に起こすことは非常に危険なことです。実際の現場で、対象となりそうな顧客の生の声を聞き、「自分がこれから提供しようとする商品・サービスに顧客が本当にお金を出して買うか?」ということが証明されなければ、起業は絶対に成功することはありません。そのため、特に起業家研修においては、文字通り「Primary Research」を第一に行って、その上で実行可能性が確認できてから事業を進める、というプロセスの訓練を行っていくことになります。このことは、事業を進めるためのリスクを管理のためにも非常に重要なことです。

 もし、事業を始める前のリスクの低い段階でPrimary Research を行ってみて、実際の手ごたえを得られない場合には、強引にスタートせずに、再度「仮説を立てる」ところから始めて、検証作業を行っていくという判断が必要になることもあります。

 前節で、ビジネスをスタートする前に、プライマリーリサーチをしっかり行って、顧客の存在を確認すべきことを説明しました。そのプライマリーリサーチの仮説を立てるために「自分が参入しようとしている市場はどのような市場なのか?」ということについて、出来るだけ詳細に調べ考えてみることで、「自分の提供しようとする商品・サービスに本当にお金を払うか?」という質問をすべき対象を適切に絞り込むことができるようになります。参入する市場について調べるべき項目とはたとえば以下のようなものです。

・市場の規模・大きさ
 新たに事業を始めるにあたって、市場の規模が収益を確保するのに十分な市場かどうかということは、きわめて重要なことです。これが非常に小さい(あるいは全くない)場合は参入すべきではない市場といえます。市場をこれから自分で切り開いていく場合には、その方法に合理的な説得力が必要になります。

・商品・サービスの購買サイクル
 これから提供しようとする商品やサービスの購入頻度がきわめて少なく、突発的にしか発生しない場合には、常に新規顧客を獲得できるような仕組みが必要になります。既存の顧客から繰り返し購買してもらえるような商品・サービスのほうが営業コストも低く安定的な収益が期待しやすくなります。

・市場の傾向
 参入しようとする市場が今現在は十分な規模があるとしても、歴史的な推移を確認したり、購買頻度などを総合的に判断したりした場合に、将来にわたって十分な市場規模が期待できない場合があります。逆に、現在はそれほどでもなくても、将来には大きな市場が見込めるものもあります。起業家が選ぶべき市場は当然将来性の高い市場といえます。

・参入障壁
 商品やサービスによっては、適切な資格保持者がいないと行えないビジネスであったり、行政による規制があったりする場合があります。事業を行う際の制約は事前に確認を行っておく必要があります。

・営業方法・利益モデル
営業方法や利益を上げるための方法は、提供する商品・サービスによって大きく違ってきます。起業家は、多くの場合、さまざまなリソースが不足していますので、当然営業コストがかかりにくくて、収益率の高いビジネスを選ぶべきといえます。

 起業家が新しいビジネスに参入するとき、その市場はより詳細に分析されているほうが望ましいといえます。ヒト、カネ、モノなどの様々なリソースが不足している段階での起業家の目指すべき市場は、先にも説明した通り、既存の他者が何らかの事情で参入していない「ニッチ市場」であるほうが一般的にはよいので、より詳細に市場を分析したうえで参入しやすい市場を見極めていくことになります。

 起業家が参入すべき市場を見極めるために市場のセグメント化し分類を試みることになります。市場をセグメントする要素としては、たとえば以下のようなものがあります。

 年齢、性別、人種、国籍(起源)、家族構成、地域、気候条件、職業、学歴、所得、趣味嗜好 等

アメリカでは、マーケットをセグメント化して、適切に分析することが非常に重要視されます。なぜなら、アメリカには、本当に多種多様な人種、国籍の人がいて、また、国土も広大で、場所によって気候条件なども非常に違い、それによるライフスタイルの違いが大きいため、それらを適切に分類して、ターゲットを決めておかないとビジネスが成立しにくいからです。

 日本国内で日本人向けの商品・サービスで起業を考えている場合には、セグメント分析の中で「人種」や「国籍」といった要素は全く考慮しなくてもよい場合が多くなります。また、国土も比較的狭いため、気候条件などもあまり考慮しなくてもよい要素となりやすいでしょう。

 「マーケットをセグメントできる要素が少ない」、ということは、必ずしも起業家にとってよいことではありません。なぜなら、対象となる顧客が似たような属性の人ばかりで、趣味嗜好や考え方、行動パターンが似通った人たちばかりの市場では、そこに参入している競合どうしでの熾烈なシェア争いとなり、結果として価格競争に陥って、収益性の低いビジネスになってしまいやすいからです。そのような市場では、経営的な体力の強い大手企業の「独り勝ち」となりやすく、リソースが不足しがちな新興の起業家では太刀打ちできないことのほうが多いのです。

 そのため、起業家としては、マーケットを詳細にセグメント化しやすい市場の、既存の他者が何らかの理由で参入していないようなセグメントで、「自分であれば(小規模な起業家のほうが)参入しやすい」市場を探すほうが、収益性が高く、かつマーケティング費用が少なくて済むスタートアップに成功する確率が高くなります。

 プライマリーリサーチを行う際にも、ここでセグメント化した対象顧客の中で、もっとも自分の提供する商品にフィットすると思われる顧客に対して優先順位を付けておくと、効率的に調査できるようになります。

 起業家が新規に市場に参入するとき、需要が十分にありそうなことが確認できたとしても、その商品・サービスの営業活動がどのように行われ、営業活動に接した顧客がどのようなプロセスで購入を決定するか、そしていつお金が自分に支払われるか、ということを事前に理解しておくことは非常に重要です。

 大企業や官公庁などをメインの顧客にするような、専門性が高い商品・サービスでは、どのようなプロセスで営業が進められるのかは特に重要になります。なぜなら、大企業や官公庁を相手にするようなビジネスでは、営業プロセスが非常に長くかかる上に、購入が決定し商品・サービスの提供が完了しても、お金が振り込まれるのが、すべてが完了したはるか先になることも多いからです。
 特に日本の大企業や官公庁では、営業方法・顧客の購買決定のプロセスが複雑になっていること(悪く言えば非合理な尺度)が多く、事前にしっかり調べておかなければならない事柄といえます。アメリカ系のベンチャー企業などが他の国で展開に成功したあと、日本の市場に参入しようとしても、商習慣の違いや日本市場の特殊性が全く理解できず、参入に失敗するケースというのは非常に多くあることです。

 飲食店やレストランのような、比較的一般的なビジネスを行う場合にも、そのプロセスを定義することは重要なことといえます。たとえば、飲食店を始めるとして、その支払いを「食券購入による前払い」にする場合もあれば、「食事がすべて終わってからの後払い」にするような場合もあるでしょう。このプロセスによって、どのような顧客を対象にするビジネスかも変わってきてしまうのです。

 一般的に支払いが早いビジネスは、「汎用的で購入頻度が高く、価格の低いビジネス」で、支払いが遅いビジネスは「購入頻度が低く、価格が高いビジネス」です。起業家が参入しようとする際に、どちらを選択するにしてもメリットにもデメリットにもなりうることであるため、自分の現在の状態に合わせた選択が必要になります。起業家が参入するビジネスでは、通常はお金も不足していることのほうが多いので、支払いが早いビジネス(できるなら前払いビジネス)のほうが望ましいといえるでしょう。

 購買頻度が低く、比較的価格が高い個人向けの商品を販売する場合などでは、「支払方法」が購入決定のための重要な要素となることもあります。たとえば、自動車を販売するような場合に、「分割払い」ができないようなシステムになっている場合には、それだけで潜在的な顧客を逃してしまうということも起こってしまうのです。このように、同じ商品・サービスを販売するにしても、支払い方法だけの違いが「顧客に提示できる価値」の違いになる場合もあるのです。

 そのため、ビジネスプランの作成の際には、比較的一般的な事業で参入するにしても、その販売プロセス・支払方法は顧客の購買決定のプロセスを考慮して、しっかりと行っていくべきことでしょう。

 起業家は新規に事業を行う際には、「顧客がいる市場」の「収益性が高い」事業に参入していくべきなのですが、そのようなビジネスは法的な規制があるなどして、極めて参入障壁が高い場合があります。

 先にも述べたとおり、一般的に「顧客がいるビジネス」とは、「必要性」「緊急性」「痛み」の高いビジネスです。そして、こういったビジネスは顧客が多く、かつ「儲かる」ビジネスであることが多いのですが、そういったビジネスの中には適切な資格を保持している人がチームにいるなどしないと参入できないビジネスも多くなります。

 たとえば、ある人が病気になったときに、その診断をして適切な処置を行うためには、医師免許を持った人が必要です。別の例をあげると、借金をしている人の返済が滞っている場合に、その取り立ての代行業務を行って良いのは、弁護士の資格を持った人であるなどします。このように、生命や健康に関することや、法律的な専門的な知識が必要なビジネスでは、非常に収益性が高い業務である反面、その参入のための規制が高く設定されていることが多くなります。

 どんな時代や地域でも、「癌が治る」「健康になる」「肌がサラサラになる」などといった根拠のない効用を宣伝した医薬品を無免許、無許可で販売して、捕まる人がいます。また、「絶対にもうかる(元本保証)」というようなあり得ない投資話の証券や会員権を、金融機関としての認可を受けていない個人が販売して、顧客からお金を集めて、その結果大損をするというような話は、手を変え、品を変え周期的に起こる事件です。当然、儲かるからといって、このような不法なビジネスは、まっとうな起業家は行ってはなりません。

 また、非常に一般的で誰でも参入してよさそうなビジネスであったとしても、それを行うのに「資格」の必要はなくても「届け出」が必要なビジネスというのも多くあります。特に日本では、行政による規制は諸外国に比べると多いことが知られていますので、事業を開始する前には、どんな事業を始めるにしても、必ず役所に問い合わせるなどして、その参入に何らかの制限があるかということを確認しておく必要があるでしょう。

 行政によって定められる参入の「規制」は、「緩和」されたり「強化」されたりして時々によって変化するものです。最近の日本では、さまざまな業界で「規制緩和」の動きが進んでいたりするため、そのタイミングは起業家にとっては「参入しやすいビジネス」を発見しやすい時期であるといえるでしょう。逆に、食品や医薬品の販売や金融や不動産取引などでは、経済状況などの要因によって突然「規制強化」されることも多くなりますので、市場に参入する際にはそのリスクを十分に検討しておく必要はあります。ただ、規制が強化されるタイミングでは、強化される規制に合わせて「やらなければいけないこと」「買わなければならないもの」というのが発生しやすい時期でもあるため、そのような時期は起業家が活躍しやすい時期ということも言えます。

 いずれにしても、起業家はどんな変化も見逃さずにチャンスに変えていくという努力を怠らないようにすべきでしょう。

 起業家が、商品・サービスを決め、その市場に参入したときに、「全く競合がいない」という状況はほとんどあり得ません。参入した市場に本当に「全く競合がいない」場合には、それは「顧客が全くいない」市場である可能性が高く、その場合はビジネスが成立しないので、再度ビジネスプランをたてなおしていく必要が出てきます。収益性が高い商品・サービスの市場には、必ずたくさんの人が参入してこようとしてくるものです。もし、収益性が高いビジネスを今自分が行っているのであれば、その周囲には必ず自分とまったく同じではないにしても、間接的に競合になっているということは多くあります。

 たとえば、ある人がハンバーガーショップで起業をする場合には、直接的な競合としてはマクドナルドのようなハンバーガーでチェーン販売している会社が競合と考えられます。しかし、顧客はいつもハンバーガーばかりを食べるわけではありません。時にはフライドチキンや宅配ピザを食べたくなることもあるでしょうし、和食や中華料理を食べたくなることもあるわけです。そのため、ハンバーガーショップで起業する人の競合相手はハンバーガー以外の飲食店とも競争をしなければならないといえます。

 他に、文房具店や薬局、タバコ屋をやるような場合にも、直接的に全く同業者が近辺にいなかったとしても、それらの商品の需要は実はコンビニエンスストアというライバルの出現よって地域の需要がまかなわれてしまうとしたら、きわめて重大な経営上の危機を迎えることになります。

 そのため、ある市場に参入しようとする際には、自分とまったく同じ業態で事業を行っている直接的な競合相手ばかりではなく、一見異業種のように見えるけれども、自分の扱っている商品・サービスの顧客を間接的に奪ってしまう可能性がある相手も想定して、分析していくことになります。分析する内容としては、「現在の市場規模及びシェア(割合)」「競合他社それぞれが持っている強み・弱み」「市場の将来性やシェアの変化の予測」等になります。

 競合他社の分析ができたら、そこから他者の特徴と比較してみての「自分自身が差別化できる部分」を考えていくことになります。自分たちが提供する商品・サービスに独自技術(秘伝)や知的財産権で保護できるようなもの(特許や意匠権)を持っているような場合には、それが強みと言えるでしょう。

 もし、直接的に知的財産権などがないような場合でも、「必ずいる競合他社」ではなく「顧客がわざわざ自分から買ってくれる理由」というのは考えておく必要があります。これは論理的に厳密である必要はありませんが、できるだけ合理的であったほうがよいことには間違いないでしょう。なぜなら、「何故だかわからないけど売れている」という状況は、その「何故だかわからない状況」がいつの間にか変化してしまったときに、「何故だかわからないけれども」全く顧客がいなくなってしまって、ビジネスが破たんしてしまうリスクを負うことになるからです。つまり、起業家が成功し続けるためには、「顧客が自分から買ってくれる理由」を常に、合理的に説明できる必要があるのです。

 この章では、起業家がビジネスを始める際に作成するビジネスプランに含めるべきことを解説しています。ビジネスプランで最初のほうに記載する順番としては、「商品・サービスの定義」を書いた後で「市場分析(マーケット調査)」の順に書くことを、「書き方として」推奨しています。これは、ビジネスプランを読む人の側から見て、この順番になっているほうが読みやすいことが多いからです。

 一方で、起業家が事業を開発する際には、考える順番は逆であることのほうが多いようです。つまり、「市場分析」を行った後で、「商品・サービスを考える」ということが多いということです。

 アメリカ国内でこれまでにいくつもの事業を立ち上げ、それら事業の売却に成功した経験のある起業家のインタビューなどで時々言及されることに、

「起業家(アントレプレナー)にとって、商品・サービスを提供することは必要だが、実は重要ではない」

というようなことがあります。

 事業を複数立ち上げて、それらを売却できる状態に育てたことがある起業家は、事業を立ち上げる際に「自分ができること」や「やりたいこと」で事業を始めたのではない場合もたくさんあるようです。自分の身近にある日常を注意深く観察している中で「社会(顧客)にとって価値のあること」を見出し、それを事業化することで成功したのだ、というような意味で「商品・サービスは重要ではない」というような言及がされることがあるのです。

 第二章でも説明したとおり、ビジネスのスタートアップには、「顧客がいること」が必要です。そして、「起業家がやりたいこと」や「起業家がやれること」「起業家が好きなこと」というのは、顧客にとってはそれほど重要なことではありません。むしろ、全く意味のないことである場合のほうが多いです。顧客にとって重要なことは、

「起業家が提供する商品・サービスが自分にとってお金をはらう価値があるかどうか」

なのです。

 そのため、起業家は何気ない日常の注意深い観察によって、まず「顧客がいる市場」を見出し、その市場に対して適していると思われる商品・サービスを開発していくというという順番のほうが「成功するビジネス」は考えやすくなります。「今現在自分ができること」に固執してそれを起点に考えるのではなく、「どうやったら自分にできるようになるか」を考える思考法のほうが起業家にとって必要な考え方といえます。

 商品・サービスを決めてしまってから、市場の分析を始めてしまうと、その商品・サービスには「全く客がいない市場」で、必然的に失敗してしまうビジネスになってしまうことも多いのです。その意味で、

アントレプレナーにとって、商品・サービスは重要ではない

のです。

 ここまで、ビジネスプランを作成する際に考えておくべき内容として、「商品・サービスの定義」と「市場調査・マーケティング分析」を行ってきました。自分が提供しようとする商品・サービスが素晴らしいもので、それを求める人がたくさんいる(市場が大きい)はずだとしても、見込み客に対してそれが伝わらなければ、事業として成立させることはできません。そのため、どのように具体的に顧客を獲得していくかという戦略が必要になります。

 マーケティングの戦略については、非常にたくさんの書籍などで情報が出回っています。そのため、ここではそれについて深く掘り下げてやることはしませんが、起業家がマーケティング戦略において特に重要視しなければいけないのは、「安価でスピーディに、しかも確実に顧客を獲得すること」になります。

 起業家は、通常は「お金」や「セールスマン」は非常に少ないところからスタートします。潜在的な顧客に接触し、商品・サービスの素晴らしさを伝えるマーケッティング手法はたくさんありますが、お金がかかる「大規模な広告宣伝」や「セールスマンの人海戦術」などの方法は起業家としてはリスクが大きいため採用しにくい方法となります。できるなら、起業家が体ひとつでいる時でも、見込み客と思われる人に接触できたときには、自分自身がセールスマンとしてすぐに説明ができる状態になっているほうがよいといえるでしょう。そのための方法が、第二章でも説明をした「エレベーターピッチ」となります。

 「エレベーターピッチ」を頭の中で整理する際、本章でここまで説明してきた「ビジネスプランで考えておくべき内容」を、20秒から1分以内に過不足なくまとめることによってより効果的なものとなります。たとえば次のような形です。

 「私は(商品・サービス)を、主に(対象となるマーケット)に対して営業を行っています。この(商品・サービス)の市場は、(市場の傾向)というように、非常に伸びている市場で、その中で私の(商品・サービス)は、(中核となる価値、特許等)に特徴があって、既存の(競合相手)などと比べると(差別化できる部分)がお客様にとってのメリットになります。まだ事業は始めたばかりなのですが、すでに(最初の顧客)などからご利用いただいていまして、大変ご好評いただいています。詳しい話などにつきましては、こちらにご連絡いただければ、すぐに対応しますよ。」

 起業家がこれから提供しようとすることやその時々の状況によって、顧客に強調できる内容というのは様々に違うはずなので、全くこの通りの内容でもなくて良いわけですが、ビジネスプランを作成するためにこれまで考えてきた内容が、役に立つことはわかるでしょう。

 顧客に接触して説明するための手段というのは、エレベーターピッチだけではなく、パンフレットや音声・動画によるコマーシャルなどたくさんの方法があるのですが、効果的に伝えるためには、「商品・サービスの定義」や「市場調査・マーケティング分析」などが、確実に行なわれていることが非常に重要なのです。

 起業家として、提供する「商品・サービス」を決め、そこに「十分な規模の市場」があることが確認でき、かつ潜在的な顧客に対して「わかりやすいメッセージ」の用意ができたとします。それでもビジネスは成功するとは限りません。ビジネスが最終的に成功するためには、何らかの形で「顧客に接触する」ということができなければ、自分の顧客になってもらうことができません。この「顧客に接触する」というプロセスも、参入する市場の選択によっては、非常に効率が悪く、コストがかかるものであることが多くなります。

 前の章でも説明したとおり、起業家が初期の段階で優先すべきことは、適切な顧客に対して「プレゼンスを上げる」ことであり、プレゼンスをあげた結果接触できた顧客に「伝わること」になります。

 顧客に接触する方法には、たとえば次のような方法があります。
 ・直接訪問、交流会への出席
 ・電話営業
 ・チラシ、ダイレクトメール、FAXDM
 ・マスメディア(テレビ・ラジオ・新聞・CS放送・ケーブルテレビ など
 ・ネット(検索エンジン対策・メールDM、バナー広告、リスティングなど)
 ・口コミ(顧客同士のコミュニケーション)

 これまでも何度も述べてきているように、アメリカの汎用的な起業家研修では、必ずエレベーターピッチについて訓練を行います。このことは、顧客への接触方法として、「起業家自身」が、顧客やそのほかの人に「直接接触する場合」の訓練ということになります。

 また、エレベーターピッチを作成し、「直接接触した人に分かりやすく伝える」ことに成功すると、「それを理解した他の人が、さらに他の人に伝えやすくなる」という、口コミの効果が生まれる可能性が出てくるということでもあります。ビジネスをスタートした直後に、効率を極めて重視しなければならない起業家が、自分のリソースを使うことなく、「顧客が顧客を呼び込んでくれる」というようなことは非常にありがたいことです。

 参入する業界によっては、顧客への接触方法として「直接訪問」や「口コミ」といった方法では効果が狙いにくい業種が多いのも事実です。それでも、起業家自身が直接的な対人の接触を行う際に、どのようなコミュニケーションをとる人物か、は事業の成否に大きく関わる問題であることが多いので、分かりやすく自分の事業を説明する「エレベーターピッチ」は、何度も繰り返し、訓練されることになります。

 「広告を出稿する」、というような汎用的な形での顧客への接触は、「商品・サービスの定義」「市場の調査」「伝えるメッセージ」を事前に計画を立て、実際にマーケットテストを行うことによって、その反応も予測がしやすいものとなります。こういった方法による顧客への接触がメインの場合には、自分自身で市場の「プライマリーリサーチ」を行ったうえで、最も効果的なものをビジネスプランに織り込んでいくことになります。

 商品・サービス自体は、それほど他者との違いはなく、顧客への告知・接触の方法なども特に目新しいものではないにもかかわらず、「広告のコピー」や「商品・サービスのネーミング(名前)」、「キャラクター」を用いたアピールなどといった、「付加的な情報」がついていることによって、顧客が大きな価値を見出し、購入に結びつくということも多くあります。

 近年では、社会的に高度に大量生産の仕組みなどが高度に発達していますので、単に「モノを作る」ということでは、差別化しにくい時代といわれており、ビジネスにおけるそういった「情報による付加価値」戦略はより重要になってきています。

 このことは、スタートアップ直後の起業家にとっても、大変に重要なことといえます。通常、起業家は「商品・サービスを開発するための生産設備」や「蓄積されたノウハウ」などは、既存の大手の他者と比べると少ない状況でスタートします。そのため、競合戦略上も既存他者がまだ行ったことのないようなコンセプトで差別化して、顧客により高い付加価値を見出してもらえるような戦略を考えて展開していくことのほうが、効果的で望ましい戦略といえるでしょう。

 こういった戦略を考える際に重要なことは、「顧客が期待できる価値」をきわめて簡潔に説明するものであるほうが望ましいとされています。先に説明したとおり、顧客が多い市場とは、「緊急」「必要」「痛み」に関連したビジネスなのですが、参入するビジネスが何かしらの問題を解決するような出張サービスであれば、「○○レスキュー」というようなネーミングを行うことで、顧客は何を期待できるのかが即座にイメージできるようになります。

 ビジネスのスタートアップに成功し、顧客からの信頼が蓄積していくと、自分に対してのイメージが固まっていく「ブランド化」が起こります。その意味では、ほとんどの大手企業は、多かれ少なかれこの「ブランド化」に成功しています。「ブランド化に成功する」ということは、顧客に対して「期待できる価値が即座に伝わる(説明の必要がない)」ということとほとんど同じ意味といえるでしょう。

 たとえば、「マクドナルド」や「スターバックス」という名前を聞いたとき、多くの人はその会社から「期待できる価値」は即座にイメージできます。しかし、彼らが提供しているのは、「世界一おいしい商品」でもなければ、「世界一安い商品」でもありません。そのブランド名からは、「この程度の値段でこの程度のおいしさのものが手に入る」という「その会社から期待できる価値」がイメージできるのです。

 例に挙げたような有名な大手企業の場合には、「ハンバーガー」や「コーヒー」という直接的な言葉さえなくても、「期待できる価値」はイメージできます。しかし、スタートアップ直後の事業の場合には、知名度も全くないため「期待できる価値」自体が分からない場合がほとんどです。その場合には参入戦略上、コピーライティング、ネーミング、キャラクター戦略などは特に知恵を出して考えていくべき項目といえるでしょう。

 起業家が、事業に新たに参入していくときに、自分が提供する商品・サービスを「いくらで提供するか?」ということは、事業戦略上も極めて重要なことがらになります。

 当然のことながら、「価格を上げる」ということは、顧客に購入してもらえた際には、「利幅が増える」ということになりますが、反面顧客が「購入する」という決断をしにくくなります。逆に「価格を下げる」ということは、顧客が「購入する」という判断をしやすくなりますが、その反面「利幅が下がる」というデメリットを抱えることになります。

 「価格」は顧客に対して、きわめてわかりやすく定量的に提示され、かつ提供する側にとっても操作しやすいものです。そのため、多くのスモールビジネスでは「価格を安くする」ことによって、競合との差別化を図ろうとします。しかし、それがために「利幅の少ないビジネス」を「専門職的なプロセス」で行っていかなければならなくなるということが多く起こってしまいます。

「顧客が自分から購入しない」理由には、単に「価格が高い」からという理由だけでなく、

「提供している会社の信用が低いから」
「価値が分からない(伝わっていない)から」
「自分にとって優先度が高い機能やサービスが欠けているから」
「ほしいけれども今は必要ないから」
「本当に必要な時に近くにいなかった(買う方法がなかった)から」
「そもそも需要が少なく市場が小さいから」
「自分が提供していることを知らなかったから」

など、「価格が高い」以外のさまざまな要因があるはずなのです。

 特に近年のビジネス環境の中では、「価格が安い」という理由だけで、顧客がどんどん買ってくれるような商品・サービスというのは、ほとんどあり得ないといってもよいでしょう。

 顧客が「価格を比較して、安いほうを買う」という行動をとれるのは、

「提供される商品・サービスがほとんど同じ(違いが分からない)」
「購入する際に、値段が比較できる余裕がある(緊急性がない)」

というような状況です。このような市場には、起業家はむしろ「参入しない」という選択をすべきなのです。

 起業家が新たにビジネスに参入する際、提供する商品・サービスの価格は、この章でここまで述べてきた、「商品・サービスの定義」「市場分析」「マーケティング戦略」など様々な要因をしっかりと検討したうえで、最後に「利益を最大化できる価格」を慎重に決定すべき事柄といえます。何も考えずに、「価格を下げる」ということを最初に行ってしまう場合は、事業に失敗する確率が非常に高くなります。

 ここまで、ビジネスプランを作成するための「商品・サービスの定義」「市場調査・マーケティング分析」」「顧客獲得・マーケティング戦略」について、簡単に考えてきました。ここまで何度も言及してきたとおり、ビジネスをスタートさせる前に、絶対に確認しておく必要があることとは

「客がいるか?客がいるか?客がいるか?」

です。そして、ビジネスプラン作成のために、ここまで考えてきたことは、「事業を始める前に絶対に考えておいたほうがよい事柄」といえます。その意味では、ビジネスをスタートさせるにあたって、起業家は、「セールスやマーケティングが得意であること」のほうが望ましいといえます。

 ビジネスをスタートする際、「セールスやマーケティングが得意」な人のほうが、ビジネスをスムースに立ち上げる可能性が高くなるのですが、「アントレプレナー」として成功するためには、そのような素質だけでは十分ではありません。

 先にも述べたとおり、アメリカの起業家研修では、「事業の目標」を「事業を売却可能な状態に発展させる」というところにおいていることが多くなります。

 もし、ある起業家がビジネススタートアップに成功したとしても、起業家自身が自分で「セールス」や「マーケティング」を行わなければ成立しないような状態であったとしたら、通常その事業は「売却可能な状態」ではありません。事業立ち上がったとして、それを「売却可能な状態」するためには、事業を「組織化、システム化」しながら発展させていく必要があります。ビジネスプラン作成時には、この「組織化、システム化」のための計画もあらかじめ考えておいたほうがよいでしょう。

 事業を「組織化、システム化」していくための起業家の素養としては、

「リーダーシップがあること」
「チームをマネージメントしていくこと」
「財務状態を正しく理解すること」

などといったことが求められるようになります。

「営業が得意」「マーケティングが得意」で、「リーダーシップがある」「高いマネージメント能力がある」、「財務状況を正しく理解可能」というようなことは、一般的には、一人の人格の中で共存はしにくいことです。たとえば、大企業で勤務している人を観察すると、

「営業が得意でも、チームプレイができず、マネージメントはできない」
「財務分析はできるけれども営業には全く向いていない」
「マーケティングのデータには強いが、そのほかのことはできない」

というような「望ましい人格」を共存できない人を多く見かけることでしょう。

「アントレプレナー」はこのような共存しにくい様々な人格を鋭いバランス感覚で立ち回っていくことが求められていくことになります。(「アントレプレナーは芸術家的である」というような表現も起業家向けの文献などでは散見されます。)

 そのため、ビジネスプランを作成するにあたっては、「営業・マーケティング」で立ち上げに成功した後の、「オペレーション・テクノロジー・経営戦略」「経営陣・チーム・組織化計画」「財務計画」等についても同時に考えていくことになります。

 起業家が初期の段階で、自分の提供する商品・サービスのマーケティング・セールスに成功して、無事に事業が立ち上がってきたとしても、その後のオペレーションが適切に行われなければ、継続的で安定した事業とはなっていきません。

 一般的に、「ビジネススタートアップに成功しやすい人」は、「マーケティングや営業が得意な人」なのですが、その後、オペレーションの体制を確立して、事業を拡大していくプロセス(アントレプレナー的なプロセス)が得意かどうかとは全く別の話となります。

 スタートアップに成功したビジネスを「アントレプレナー的なプロセス」で拡大させていくために重要な考え方が、事業を「システム化」していくということになります。事業を「システム化」していくためには、事業の中の「営業」「マーケティング」「商品・サービス開発・提供」などの様々な要素を個人に依存せず、組織的に動かしていく必要があります。

 「専門職的なプロセス」での商品・サービスの提供を行っている人の場合は、特にこの「商品・サービスの提供」の部分をシステム化することなく、自分自身の属人的な能力に依存した状態にして、その状態を繰り返していくことになりがちになります。

 たとえば、

飲食店で起業をした人が、「自分自身で調理を行い続ける」
学習塾を開業した人が「自分自身で講師を行い続ける」
コンサルティングで起業をした人が「自分自身でコンサルティングを行い続ける」

といった状況です。このような状態で、起業家自身が自分自身で「商品・サービスの提供」を行う場合には、スモールビジネスにとどまりやすく、多くの場合には、先に述べたような「スモールビジネスにとどまることによる問題」を常に抱えながらも、結局そのままの状態を続けざるを得ないという状況になりやすくなります。

 コンサルティングのような知的な専門性の高いビジネスの場合は、その事業のシステム化は簡単ではないかもしれません。しかし、たとえば一般的な飲食店を始めるような場合、「調理方法の詳細なレシピの作成」「店内の清掃・消毒方法のマニュアル」「お客様への声の掛け方の徹底」といったことで、自分自身がその作業を行わなくても、自分以外の他の人(アルバイトなど)にそれに沿った方法で仕事をしてもらうことで、その事業の品質の維持・向上に努めることができるようになります。

 経営学の本などにおいては、「経営者は、頭を使うことが仕事」ということが一般的にはよく言われます。起業家の場合には、最初の段階ではリソースが少ないことが多いため、起業家自身が「自分の体」を使って商品・サービスを提供していく必要がある場合も多いものですが、本質的な部分においては、常に「頭を使って仕事をする」という人であったほうがよいことは間違いないでしょう。

 そのため、起業家がビジネスのスタートアップに成功したら、その後の事業全体の運用に関しての「システム化」という部分に対してどのように計画を立て、実装していくかということを常に考えていくべきといえます。

 スタートアップに成功して、収益性の高い状態で事業を続けていくことができるようになるためには、やはり、事業の中核部分である「商品・サービス」の技術的な競争優位性があることが望ましいといえます。ビジネスのスタートアップの段階では、多少奇をてらったマーケティングやセールスの手法などで、その立ち上がりに成功することも多くあります。しかし、提供する商品やサービスが継続的な収益を上げていくためには、その品質(競争優位性)の問題がより重要な要素となります。

 自分の提供している商品・サービスが非常に革新的なもので、きわめて収益性の高いビジネスである場合にも、それで安心できるわけではありません。むしろ、そのタイミングにこそ、適切にその技術を保護するような計画を立てて置く必要があります。なぜなら、収益性の高いビジネス(儲かるビジネス)には、さまざまな人々が参入しようとしてくるからです。

 誰かが、「儲かってそうなビジネス」を行っていて、しかもそのビジネスが「自分(誰)にもできそうなビジネス」の場合には、多くの人がそのビジネスを模したビジネスを行おうとします。時には、後発の参入者のほうが競合優位性の高い機能を付加した商品・サービスを提供し始めることによって、自分自身の事業を脅かす存在となる場合があります。また、時には、模倣した側の商品・サービスが極めて劣悪であるがために、自分も含めた業界全体がきわめて深刻な風評被害を受けることなども考えられます。

 そのため、技術的な新規性が高い商品・サービスである場合には、特許を取得するなどして、ビジネスを保護することになります。特許の場合にはそのノウハウなどの情報は基本的には公開を前提としますので、製法その他を公開せずに保護する場合もあります。(有名な例ではコカコーラの製法は特許申請されていません)

 自分が素晴らしい商品・サービスを開発したときに、どのようにその権利を保護しながらビジネスを維持・拡大させていくかということは、非常に重要な事柄のため、アメリカのほとんどの起業家研修においては、知的財産権に関しての講義が行われています。知的財産権の保護のされ方は、国によっても細かく違いますが、アメリカは特に知的財産権に関して非常に敏感で、訴訟なども起こりやすく、知的財産権を侵害した企業などに対しては厳しい制裁が下されることも多くあります。また、アメリカでは特許取得の費用や裁判を行う際の弁護士費用なども日本と比べて安価ですので、起業家にとっては、斬新なアイデアでビジネスを始める時には、他のどの国よりもアイデアを保護しながらやりやすい国であるとは言えるでしょう。

 日本では、知的所有権に関しての一般的な認識も低く、訴訟費用が高いことや、裁判で権利の侵害が認められた場合の賠償額などもアメリカと比べると極めて低い判断がなされることのほうが多いようです。そのため、小規模な起業家にとってはハンディキャップとなりやすい部分ではありますが、自分が展開するビジネスの「知的所有権の保護」をどのように行っていくかは考えておくべき事柄といえます。

 事業を行う上で、全体的な方向性としてどのようなオペレーション(運用)方針を取っていくかということは、非常に重要な事柄といえます。商品・サービスに大変な新規性や独自性があったとしても、方針の定め方によっては、全く違うビジネスとなり、事業が発展する方向も大きく変わってくることになります。

 たとえば、「新しい独自のレシピ」を用いた料理を提供していくビジネスを行っていくとします。しかし、「顧客に安価に、おいしい料理を気軽に食べてもらう」のと、「顧客に落ち着いた空間で、新しい独自の料理をゆっくりと味わってもらう」のとでは、当然ビジネスの方向性は全く違うものになります。前者の場合には、「仕入れコストの削減」「設備、インテリアの簡素化」などのコストダウンを中心とした運用方針をとることになるでしょうし、後者の場合には、「上質な原材料の仕入れ先の確保」「閑静な立地」「落ち着ける清潔感のある内装の維持」「接客の細かな気配りの教育マニュアルの作成」などの運用方針が必要になるでしょう。

 このように、起業する際に同じような商品・サービスを提供するにしても、それを顧客に提供する際の方針の立て方で、その後のビジネスの発展性に重大な違いをもたらすことになります。

 こういったオペレーションの方針は、ビジネスプラン作成のためにこれまで考えてきた「商品・サービスの定義」や「対象となる顧客の調査」などを詳細に行っていれば、それに対応した方針は決めやすくなるものではあります。しかし、「専門職的なプロセス」によって「商品・サービス」が起業家自身から提供されるスモールビジネスの場合には、この方針自体が決まっておらず、その時々に獲得できた顧客の状況に向けて方針を変えながら進むようなケースが多くなります。そして、明確な方針のない(考える時間もない)まま、スモールビジネスにとどまり続けることになります。

 これまで、ビジネスをスタートさせる際に「自分のやりたいこと」を中心とした考え方で事業を開始すると、「顧客がお金を払うこと」と一致しない可能性が高く、失敗しやすいことは議論してきました。それでも「自分が提供する商品・サービス」と「顧客がお金を払うこと」が一致し、事業として回り始めた後で、自分がその事業と「どのような方向性に進みたいのか?」という方針を考え行くということは、大変に重要なことといえます。

 もっとも理想的なのは、「事業の方向性」と「自分自身の目標・方向性」が完全に一致し、それに向けて迷いなく事業を進めていける場合です。しかし、現実のビジネスにおいては、そうではない場合も多くあります。(むしろ、そうでない場合のほうが多いといえるかも知れません。)それでも、事業を維持、拡大させていくプロセスにおいて、それを行っている起業家自身が持っている「事業に対しての動機付け(モチベーション)」というのは、そのビジネスの成否にかかわる非常に重要な問題である場合が多いので、それらを一致させていくべく、常に行動を行っていくことは必要なことといえるでしょう。

 スタートアップに成功した事業を、「アントレプレナー的なプロセス」によって、起業家自身の属人的な能力に依存しないような「売却できる事業」へと発展させていくことを目指す場合、事業の中で必要となる仕事を他の人に委譲(transfer, take over)できる形にすることが必要になります。

 一般的に、ビジネスを少ない人的リソースでスタートする場合、営業、マーケティング、製品・サービス開発など様々な事業プロセスは、それを担当している人の属人的な能力に依存し、主に「勘と経験」によって、不安定に進められることが多くなります。このような状態を、できるだけ「個人に依存しすぎない(属人的になり過ぎない)」システムとして安定的に事業を動かしていくほうが望ましい状態といえます。そのために、重要なことが、事業プロセスの「数値化」「マニュアル化」という考え方となります。

 たとえば、マクドナルドやセブンイレブンなど、元々はスモールビジネスから事業を拡大して大事業へと発展している会社は、さまざまな事業プロセスの「数値化」「マニュアル化」を徹底的に行って、全体として大きな整合性がとれたシステムとして運営されています。

 事業というのは、一時的に成功させるだけでなく、継続的に維持発展させていく必要があるものです。そして、事業が発展しているのか、あるいは後退しているのかということを正しく認識するためには、定量的に数値化された指標が必要になります。

 事業を定量的に測る指標として、最もわかりやすく、かつ最も重要なものは「お金」です。ただし、「お金」は、提供される商品やサービスの価値に対して、顧客が最終的に納得したうえでそれに相当した金額が支払われるもので、具体的に「お金」が支払われる以前に、それ以外の様々な数値化できる要素があるはずです。そういった要素をできるだけ分かりやすい定量化できる数値として測定・蓄積し、改善していくプロセスを行うことによって、事業を合理的に発展させていくことができるようになります。

 事業プロセスのなかで、さまざまに数値化が行われた要素の観察、改善活動を行った上で、最も効果的に作業が行えるような方法は、「マニュアル化」し、誰がやっても、何度やっても同じ品質でその事業プロセスが履行されるようにしていくことで、質を維持しながら事業を発展させていくことができるようになります。

 アメリカでは、アメリカの国籍を持っている人でも、教育レベル(時には言語レベルさえも)が人によってバラバラであることも多いため、「誰がやっても同じ仕事ができる」ような、事業プロセス(業務)の「マニュアル化」というのは非常に重要なこととなります。飲食店などのフランチャイズで成功している会社(例:マクドナルド)などでは、社会経験の少ない高校生から老人までが、同じ業務マニュアルを利用して、その事業が提供するサービスの品質を維持ししています。

 事業を「アントレプレナー的に」拡大していくためには、こういった「数値化」「マニュアル化」ということは、必要な考え方となります。

 ビジネスは通常

「何らかのリソースの外部からの仕入れ」
「自社内での何らかの加工」
「販売チャネルを使って販売」

という連鎖的なプロセスの繰り返しで行われます。起業家が事業を開始するとき、この連鎖的なプロセスの中で、自分のビジネスではどこで付加価値が発生しているのか、ということの確認を行いながら、常に付加価値を高くするようなオペレーションの改善を行っていくべきといえます。

 まず、仕入れルートに独自性がある場合を考えてみます。たとえば何らかの理由で他社よりも安い値段で同じものを仕入れることができるとします。そのような場合には、他者と同じ値段で販売しても他社よりも高い利益を出しながらビジネスをすることが可能ですし、若干値段を下げて販売することで自分は利益を確保しながら価格でのメリットを顧客に提示することも可能になります。また、ある「評判の高い仕入れ先」から「独占的(限定的)な仕入れの権利」を得ている場合には、顧客は自分の会社からしか購入することができなくなりますので、そのこと自体が高い付加価値を生むことになります。

 仕入れルートが他者と同じで汎用的なものしか確保できず、提供する商品・サービスも同じようなものであっても、独自の販売チャネル(販路)がある場合には、それが「顧客にとっての価値」である場合があります。たとえば、ある人が集まる施設(駅構内、学校、高速道路のサービスエリア、ショッピングモール)などで、許可を得て「独占的(限定的)な販売の権利」を得ている場合には、その場所にいる顧客は、ほしい品物をそこでしか買うことができませんので、安定的に利益を確保することができます。

 このように、提供する商品・サービス自体には、それほどの優位性がない場合でも、「仕入れルート」や「販売チャネル」の独自性によって、顧客にメリットが提示できる場合があります。そのため、事業を始める際には、そのプロセス全体をよく検討したうえで、自分がメリットを出しやすい部分から始めていくということも、参入戦略としては有効な手段であることもあります。

 ただし、自社の商品やサービスに独自性が少なく、特定少数の「仕入れルート」や「販売チャネル」に依存したビジネス形態というのは、依存している相手が自分に対しての態度を突然変えたときになどには、事業の存続自体ができなくなるほどの危機をもたらすことになります。そのため、「仕入れルート」も「販売チャネル」も、できるだけ数を増やしながら運営を目指すほうが望ましいといえるでしょう。

 一般的なビジネスにおいては、自社の商品やサービスの「独自性」や「付加価値」が高くなればなるほど、仕入れ先や販売先は数が増えてくることになります。それによって、事業の収益性も高くなると同時に、安全性も高めることになります。

 「少数の外部の取引先に依存している状態」では、起業家が目指すべき状態としての「事業を売却できる状態」にもなりにくいものですので、ビジネスプランの中でも、その数を増やしていくようなプランニングを行うことが大切なこととなります。

 アメリカの起業家研修では、ビジネスプラン作成の目的は、「投資家に事業の説明をすること」が前提であることが多いのですが、投資家が「起業家が個人で行っているビジネス」に投資することは通常はありません。投資家が投資をしたいと考えるビジネスとは、優秀なチームによって運営される収益性の高いビジネスです。

 ビジネスアイデアに取り立てて新規性がない場合でも、その人物(経営陣)のこれまでの経歴などによって、市場内での信頼がきわめて高く、良質のカスタマーベース(顧客基盤)を持ってビジネスをスタートできるような場合には、ビジネスの立ち上がりのリスクが少なく、かつ収益性も期待できるため、投資家によって投資を受けやすくなります。

 特にアメリカでは起業家が事業の発展した後の目標として「事業を売却できるような状態にする」ということを目指すことが多く、そのために事業プロセスの「数値化」「マニュアル化」などを行いながら「システム化」した組織を作っていくことになります。

 しかし、事業というのは機械によって無機質に行われるものではなく、その構成員として人間が有機的に関わりながら発展していくものであるため、投資家が事業の評価を行おうとするときには、

「経営陣がどのような人物によって構成されるか」
「事業がどのようなチームによって行われるか」

ということにも強い関心が向けられることになります。投資家によっては、ビジネスプランを読む際、「ビジネスアイデアよりも先に経営陣の経歴を見る」というコメントをする人も多くみられます。

 ビジネスプランに記載する経営陣の経歴は、実行しようとするビジネスに関連した信頼性のある実績を記載していくほうがよいとされています。そして、経営陣がどのような役割を持って仕事をしていくのか、の役割分担が明確になっているほうが望ましいでしょう。また、実際に直接的なチームとして参加せずとも、「相談役」などの形で参加してもらえる人がいる場合は、そういったことも記載しておくことになります。

 ただ、ビジネスをスタートさせた直後の起業家というのは、最初の段階では人的なリソースも非常に少ないのが普通ですので、これらが完璧に決まっている必要はありません。会社を運営していく上で汎用的に必要なリソースである、「経営の専門家」「経理の専門家」「法律の専門家」などは、むしろ投資家側が人脈やリソースを保有していて、そちらサイドから提供することが可能であることも多いからです。

 このため、この部分に関しては、

「今現在の起業家自身が持っている人的リソース」
「将来的な理想的な組織図」
「今現在、不足している人的なリソース」
「不足している人的なリソースを補完していくために望ましいタレント(才能)」

などを正確に理解して、将来の理想的な状態に向けてどのような人材戦略を採用していくか、が分かりやすく記載されていることのほうが重要といえます。

 ビジネスを行う中で、「お金」はもっとも重要な指標であって、ビジネスプランのなかでもこの部分の計画を無視することはできません。起業家がビジネスプランを作成している段階では、まだ実際の顧客も存在していないこともあるので、その正確な予測を立てることは非常に難しい場合も多いものですが、それでも、ビジネスがどのように進めばうまく利益がでて、継続していける状態になるのかということについてしっかりとした計画を立てておくことは極めて重要なこととなります。

 財務計画をたてる際に、考えておくこととしては、たとえば以下のような事柄です。

初期コスト(会社設立費用、設備投資など)、
定期的な固定費用(地代家賃、人件費など)
売上ごとにかかる費用(原材料費、外注費、運送費用など)
単位販売価格、損益分岐点に達するための売上数、そこに達する時期の予測
現在の財務状況(手持ち資金・資産、既存の債務の有無など)
将来的に必要と思われる資金(追加の設備投資、開発費用)

 事業の収益モデルは、起業家が開始するビジネスによって様々に違いがあるので、これ以外にも財務的に考慮が必要なことはたくさんありますが、財務計画においては、考えられる費用リスクはできる限り詳細に洗い出し、計算ができている必要があります。

 ビジネスがビジネスとして成立するためには、これまでも何度も議論してきたように、「顧客がいること」が絶対に必要です。しかし、十分な数の顧客がいたとしても、「財務計画が杜撰であるためにビジネスが破たんする」というようなことは実際のビジネスの世界でも頻繁に起こることです。そのため、初期の段階で「顧客が獲得できなかった場合」「顧客からの入金が遅れた場合」などに、どの程度まで事業を継続していくことができるか、というようなことも、リスクとして計算できるようにしておく必要があります。

 また、ビジネスにおいてはそれを行う「タイミング」というのも非常に重要です。起業家が素晴らしいビジネスアイデアを持っていたとしても、それを行うための十分な資金がないためにタイミングを逃してしまうということも起こりえます。あるいは、ビジネスによっては小規模では利益が出にくいビジネスというのもあり、ある程度の規模を超えると急速に利益が高まるビジネスというのもあります。
そのような場合には、初期の段階で投資家や銀行に対して事業資金の提供を求めることもあるでしょう。

 投資家や銀行に資金の提供を求める場合などは特に、「ビジネスアイデアの優秀さ」や「顧客の存在」などとともに、財務に関しての計画が綿密に練られている必要があります。ビジネスは、最終的には、それがもたらす「利益の大きさ」によって評価されるものですので、ビジネスプランにおいても、この部分はより具体的かつ精密に計画を立てていかなければならないものとなります。

 起業家が事業を始める時、ほとんどの場合には未来が正確には予測できない(ビジネスが立ち上がるかどうかも分からない)状況で「目の前のやらなければならないこと」を限られたリソースで行っていかなければならないことのほうが多くなります。そのため、事業がうまく立ち上がった際に、最終的にどのような状態を目指すのか、ということまでなかなか具体的に考えることができないものです。

 しかし、「目の前のやらなければならないこと」に集中しすぎると、それを繰り返すだけが生活の中心となり、その起業家にとって「どんな状態が理想的な状態なのか」ということ自体が判然としない状況となりやすくなります。

 アメリカの起業家研修においては、ビジネスプランに記載すべき項目の中に「出口戦略(Exit Plan)」という項目がほとんどの場合はいっています。

 これまでに何度か説明してきたとおり、アメリカでは事業を始める目的を「事業自体を売却できる状態にすること」に置くことが多くなります。自分自身が始めたビジネス(自分自身がビジネスをしている状態)から、その事業をどう成長させ、最終的に自分がどのように抜け出す(Exitする)か?ということの最終的なイメージをして、その状態に向けて進むほうが、ビジネスの方向性が定まりやすく、事業に対してのモチベーションも高めやすくなります。そのための計画が「出口計画(Exit Plan)」となります。

 起業家が事業の将来的な目標を考えるとき、それを「株式公開(IPO)」「上場」としていることもあります。「株式を公開する」ということは、「市場での資金調達が容易になる」「創業者利益を得やすい」など、さまざまなメリットが発生します。反面「お金を出せばだれでも株主になれる」ということになりますので、起業家の意向とは関係なく株を買った人に株主総会の議決権を渡すことになり、起業家自身の自由な事業運営などが難しくなるなどのデメリットがあります。そのため、事業が大きく発展した「売却できる状態」であっても、「株式を上場する」という選択を行わず、非上場のまま会社の運営を行っている会社も多くなります。

 行っている事業が、大規模な設備投資などが必要でスケールメリットが出やすいような事業の場合には、小規模な事業体として単独で存在するよりも、既存の大企業の傘下に入って事業を行うほうが、安定的な運営が期待できる場合などもあります。その場合には、出口戦略として、「大企業に吸収合併(M&A)をしてもらう」、という選択が最適な場合もあります。

 出口戦略として、「株式公開」や「吸収合併」を目指すということでなくても、「経営は信頼できる人に任せて、自分は研究開発に注力する」「100%の株式を親類(子供)に譲渡する」などという起業家自身の考え方にあったプランを立てることは可能ですが、そのような状態にするためにも、事業をシステム化して、「売却できる状態」にまで発展させるということが重要な考え方となります。そのため、起業家は「事業を始める前から」その出口戦略を考えておいたほうがよいといえるでしょう。






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