第3章 事業の目的







 ある人が、ほとんど何もない状態からビジネスを始めようとするとき、その動機や目的は様々です。ただ、ある人が起業をする際、その目的が、一義的に

「お金を得ること」

になっていることが多くあります。

 しかし、これはあまりよいことではありません。なぜなら、「お金を得ること」、だけを目的とするのであれば、自分で事業をはじめる(起業する)必要がないからです。

「お金を得ること」だけが目的の場合、投資・投機などもっと直接的な手段がたくさんあります。また、「生活するに十分なお金を稼ぐ」ことを目的としている場合には、自分で事業を始めるのではなく、どこか安定的な雇用を提供してくれる会社を探し、そこに雇用されることで、その目的は達成されるのです。むしろそのほうが、自分の責任でビジネスを始めるよりも、より安全で確実な方法となります。

 事業を自分で行う場合に、「お金」とは「顧客からのみ」もたらされるものです。そして、顧客がお金を払うのは、「何らかの価値」を顧客に提供しているからです。そのため、起業する際の目的は、最初に、「顧客(社会)に対しての価値の提供」があり、その結果として得られる「お金」を最大化するということを目的としなければならないのです。

 このように、「起業」をする際に、「お金」を一義的な目的とはしてはいけないのですが、他方、目的の中には「お金(利益)」は、絶対に含んでおかなければなりません。なぜなら、その目的に「お金(利益)」が含まれない場合、ビジネスではないからです。

 社会的に意義深いと思われるようなことを行いたいと考えている場合、「社会的な評価は高くても」「利益となりにくい」事柄も多くあります。その場合も、「起業」という形態は取らないほうがよい場合があります。たとえば、「地域のボランティア」や「CSR活動」を行いたいと考えている場合などでは、「お金」という尺度での目的達成(利益創出)が難しくなります。このようなことを行いたい場合は、起業という形態をとらず、公益法人や大企業の社会貢献部などに企画を持ち込むというような形のほうが、さまざまなサポートを得て目的が達成されやすいことも多いのです。

 アメリカや日本のような先進国においては、最低限の人間的な生活をしていくためには、「お金」というものが絶対に無視できないものですから、ビジネスを行う場合には、「社会に対しての価値の提供」というような理念だけではなく、当然ながら、「お金(利益)」を継続的に得ていくということを、最低限の目標としていく必要もあります。

 このように、「起業」の目的には、「社会に対して何らかの価値を提供する」という理想がまずあって、かつ、その結果として得られる「お金」も目的として含む必要があります。その意味では、起業家は崇高な理念を掲げつつ行動しながらも、「お金」という、きわめてリアリティの高いもの(現実)をしっかりと直視して、稼いでいくということが必要になるのです。

 ビジネスをスタートするためには、「顧客がいること」が絶対に必要で、逆に顧客がいれば何とかビジネスをスタートすることができます。前の章で説明したとおり、アメリカの起業家研修においては、「ビジネスをスタートする」ための絶対に必要である「客がいるか?」ということについての確認(フィージビリティスタディ)や、顧客や投資家に出会ったときに効果的に分かりやすく説明するための練習(エレベーターピッチのトレーニング)などを行うことが多くなります。アメリカでも、「ビジネス・スタートアップ研修」というような意味合いで、一日で終わるようなものであれば、前章でやったような内容だけをインタラクティブに行っただけで終わりになることも多くなります。

 スタートアップの段階から顧客の獲得に成功し、「顧客に何らかの価値を提供」して、その対価として「お金」を受け取り、十分な利益を上げることができるようになったとします。「顧客に何らかの価値を提供する」という崇高な理念を掲げて、それが顧客に評価されて十分な利益が受け取れるようになったとした場合にも、その方向性は、大きく2つの方向性にわかれることになります。それは、

「専門職的なプロセス」
「アントレプレナー(事業家)的なプロセス」

の2つです。

 「専門職的なプロセス」とは、ビジネス・スタートアップした人によって、属人的に顧客に何らかの価値が提供されるタイプのビジネスです。「調理師の技能を持った人が飲食店を行う」「服飾デザイナーが衣料品店を開店する」「建築家が設計事務所を開く」「医師の資格を持った人が、開業する」「弁護士資格を持った人が事務所を開業する」というような場合です。

 このような場合は、「顧客に対して提供される価値」は、「ビジネスをスタートした人」そのものから提供されることが多くなります。「提供される価値」が、どちらかといえば、それを提供している個人に依存していますので、その価値を創出する人がいなくなったり、人が変わったりすると、提供される価値が変化したりすることになります。世の中のスモールビジネスの多くは、日米を問わずこういった形態となっています。

 「アントレプレナー的なプロセス」とは、「専門職的なプロセス」を経て、ビジネス・スタートアップに成功したとしても、その後にビジネスをシステム化しながら発展させていくようなプロセスになります。

 「専門職的なプロセス」であっても、「アントレプレナー的なプロセス」であったとしても、顧客に価値を提供して正当な対価を得ている限りは、どちら間違っているわけでもない、正しいビジネス・スタートアップではあるのですが、アメリカで「Entrepreneurial Study(アントレプレナー研修)」というような場合には、どちらかといえば、後者の「アントレプレナー的なプロセス」を推奨していくことになります。
 

 アメリカの研修では、多くの場合、講師と受講者が双方向的にコミュニケーショーンをとりながら講義が進みます。筆者が受講したMBAのEntrepreneurial Studyも例外ではなく、実際に自分でもビジネスを行い事業を売却した経験のある女性教授が、受講者全員に対して、

「どのようなビジネスを考えて、この研修を受けているのか?」

という質問をされました。そして、20人弱の受講者のうち半数以上が「コンサルティングを始めたい(すでに行っている)」という回答だった時に、その女性教授が言い放ったのが、次のような言葉です。

I am quite disappointed. Because, consulting is not entrepreneurial!
(私はすごくがっかりしました。なぜなら、コンサルティングはアントレプレナー的ではないからです。)

 これはもちろん、「コンサルタント」という職業を行っている人を否定しているわけではありません。「コンサルタント」という職業も、顧客に対して誠実にサービスを提供している限り、社会的にも貢献度の高い職業です。

ただ、「専門職的なプロセス」と「アントレプレナー的なプロセス」とは違うプロセスであって、特に「コンサルティング」というサービスの提供の仕方は、多くの場合、極めて属人的な要素が大きく、どちらかといえば「専門職的なプロセス」となりやすく、「アントレプレナー的なプロセス」に進みにくいのです。

 「コンサルティング」に限らず、「医師」「弁護士」など、自分自身が高い専門性を持ってサービスを提供し、それによって高い対価を受け取りながら活動を行っていくことも、社会的にも高く評価される活動で、当然に素晴らしい活動です。

 しかし、私たちが受講していたのは、「Entrepreneurial Study」のクラスだったわけですから、そのクラスでは「アントレプレナー的なプロセス」を説明していこうとしているのに、受講者の半数以上が本質的に志向しているビジネスが、「アントレプレナー的なプロセス」ではないものを志向していたので、「がっかりした」のです。

 「専門職的なプロセス」というのは、ビジネスとしては成立するものの、どちらかといえばスモールビジネスにとどまりやすく、そのビジネスに巻き込む人の数も少なくなりがちです。それに対して、「アントレプレナー的なプロセス」というのは、できるだけ多くの人も巻き込みながら、事業をシステム化し、拡大していくプロセスを志向しています。

 「専門職的なプロセス」を志向するか、「アントレプレナー的なプロセス」を志向するかは個人の選択でしかありませんので、どちらを選ぶのも自由ですし、どちらを選択しても正しい選択です。ただし、コンサルティングのようなきわめて専門性の高い職業というのは、「アントレプレナー的なプロセス」とは全く性質の違うプロセスである、ということの認識はしておいたほうがよいでしょう。

 顧客に対して価値のある商品・サービスを提供して、ビジネスをスタートさせることに成功すると、大きく

「専門職的なプロセス」
「アントレプレナー的なプロセス」

に分かれていくことになります。そして、どちらの方向に進むのも間違った方向性ではありません。ただ、多くのアメリカの起業家研修においては、どちらかといえば「専門職的なプロセス」ではなく「アントレプレナー的なプロセス」に進むことを推奨しているようです。

 「専門職的なプロセス」を推奨しないことの理由の一つは、ビジネス・スタートアップに成功して、「専門職的なプロセス」に進んでいくと、商品やサービスの提供が、きわめて属人的な部分に左右されやすくなるため、何らかの理由で価値の高い仕事を行っている人がいなくなってしまうと、安定した品質での事業が行いにくくなるからです。

 たとえば、調理師としての職を持っている人が、レストランを開業しているような場合に、「調理方法がその人の腕やその日の気分に左右される」場合や、「調理師が休みで別の人が作ると味が変わる」というような場合には、顧客にとっては「期待できる価値」が訪れた日や時間によってかなりぶれることとなり、顧客が固定客とはなりにくくなってしまいます。

  顧客に対して継続的に価値のある商品・サービスを提供するためには、顧客が「期待している価値を知っている」ことが重要で、「常にその期待を満たし続ける」ことで成立します。この部分が、「専門職的なプロセス」で提供され、属人的であり続ける限りは、ビジネスとしても安定しにくくなるため、システム化に向かう「アントレプレナー的なプロセス」というのを推奨することになります。

 また「専門職的なプロセス」に進んでいる人が、「顧客の期待」を正確に理解し、「期待を満たし続ける」仕事を常に行っているような場合にも、サービスの提供が属人的である場合には、需要が増えた際には、「仕事を行う時間を増やす」か「需要を断る」という選択をせざるを得なくなります。多くの場合には、ぎりぎりまで「仕事を行う時間を増やす」というところまで持っていくのですが、そのような仕事を長期間続けていると、いつの間にか自分の意思とは関係のない何か他のものに「奉仕させられている状態」となり、精神的にも行き詰まりやすくなってしまいます。

 医師や弁護士のような資格等によって参入障壁の高い職業であれば、社会的な地位も高く、専門職的なサービスを提供することによって、比較的多くの収入を得て余裕のある生活をしていくことも可能な場合も多いですが、一般的な職業においてはそうでないことのほうが多くなるといえるでしょう。

 多くのスモールビジネスが、このような状態で事業を行い、多くの不安や不満を抱えてビジネスを行っているため、そのようなプロセスをあまり「推奨はしない」のです。

アメリカの起業家研修プログラムで、「アントレプレナー的なプロセス」を推奨するのは、「アントレプレナーは社会の中での役割としての視野を広く持つべき」、ということ言うことにも関連します。起業をしてビジネスを行っていくと、少なからず顧客、従業員、取引先、株主などとの関係が広がってくることになります。

 起業して顧客に商品・サービスを提供して、何らかの価値を提供していくことでビジネスはスタートしますが、事業主が事業を行うことで提供される価値というのは、顧客に対してのみ提供されるわけではありません。

 たとえば、従業員やアルバイトを雇う場合には、その人たちへの収入の手段を提供することになります。何らかの仕入れを行うようなビジネスであれば、取引先に売上をもたらすことになります。ビジネスを行った結果、大きく利益が出た場合には、その分支払うことができる税金も多くなります。事業を開始するために、だれかに出資してもらっている場合には、利益が出た場合には、事業所得から配当金を支払うこともできるようになります。

 株式を公開している企業が、株主に対して配当を用意するような場合には、より社会的にその恩恵を受ける人が多くなります。株式を公開している企業が、事業を発展させ続け、その企業価値を高め、常に適切な配当を用意するような場合、機関投資家などから長期的に保有してもらえることになります。機関投資家の多くは、年金の原資の運用のために株式市場に投資しているので、起業家がまっとうな事業を行って企業価値を高めていくことによって、年金の原資を増やすことに貢献ができるようにもなるわけです。

 「専門職的なプロセス」で事業を行っていくのも、ビジネスとしては立派な成立のさせ方です。ただ、属人的な技能等に依存した顧客への価値の提供というのは、属人的であるがゆえに社会的な広がりも小さくなりやすくなります。

 ビジネスをスタートするにあたって、あまり社会性の広がりを意識せず、自己完結的な視野で、「専門職的なプロセス」での事業を展開したいと考えているのであれば、自分自身で事業を持って展開する必要がない場合も多くあります。たとえば、大きな会社の傘下に入るなどといったことで、より安定的に「自分のできること」や「自分のやりたいこと」に集中できるようになるのです。

 また、先に説明したように、「専門職的なプロセス」では、顧客に提供される価値が属人的になりやすく、安定的なサービスの提供ができないことが多いことや、属人的なままのサービス提供である場合には、リソース的な限界がすぐに来てしまうなどの問題が発生しやすくなります。

 そのため、アメリカのアントレプレナー教育においては、事業をできるだけシステム化し、「アントレプレナー的なプロセス」で、属人的にならないシステムに依存したビジネスを作り上げていくことを推奨することになります。

 ビジネス・スタートアップに成功して、「専門職的なプロセス」でビジネスを行っていると、「属人的なビジネス」の様々な問題が発生しやすいため、「アントレプレナー的なプロセス」に進むことを推奨することになります。「アントレプレナー的なプロセス」とは、ビジネスが属人的にならないように、システム化しながら事業を行っていくことといえます。そして、「属人的なビジネスにならない」、ということは「起業家自身にも依存しない」ビジネスです。

ビジネスのスタートアップ直後は、どうしてもその中心に起業家自身が存在しないとビジネスが回りにくいものとなりますが、その状態をできるだけシステム化して、「起業家自身にも依存しない」ビジネスとして成長させていくことになります。

それでは、「アントレプレナー的なプロセス」で事業を行っていく場合の、事業の目的とはどのようなものになるでしょか?それは、

事業を売却(EXIT)できる状態にすること

になります。

 アメリカの起業家教育においては、ビジネスプランの作成の際には、ビジネスを始める前の段階から、その事業が成長した先にどのような出口戦略(EXIT Plan)を用意するのかを考えておくことを指示されます。

 出口戦略を明確にしておくべき、と言っても、「売却」という行為そのものを行う必要はないのですが、それでもいつでも事業が売却できる状態に向けて進むということは重要な考え方となります。

 ビジネス・スタートアップに成功すると、「専門職的なプロセス」に進むにしても、「アントレプレナー的なプロセス」に進むにしても、「貸借対照表」と「損益計算書」の両方を記載することになります。
「アントレプレナー的なプロセス」に進む場合には、自分にとって充分な額の「役員報酬」を確保しつつも、最終的には売却可能な状態にすることを目的としていますので「貸借対照表の」純資産など「売却する際の価値」を最大化することを目的とすることになります。

 これに対し、「専門職的なプロセス」を志向する場合の起業家の関心は、どちらかと言えば「損益計算書」から支払われる「役員報酬」の項目を最大化する方向にだけ進み、貸借対照表については無関心になりがちです。「専門職的なプロセス」での事業は、その仕事が個人に紐づいた属人的なもののため売却も行いにくく、あるタイミングで「その事業をやめてしまいたい」という気持ちになったとしても、顧客に対して価値を提供できる人間がやめてしまうと事業が完全に止まってしまうために、「やめるにやめられない」というジレンマが発生しやすくなります。

 そのため、事業を行う場合には、どのようにEXITができるか、ということを常に頭に入れて進めることを推奨することになります。

 事業の目的を「売却(EXIT)可能な状態にすること」とすると、多くの自尊心の強い起業家の方などは、「”自分の”事業を売却する気は全くない」という反応になりがちなようです。

 アメリカで最も成功した外食フランチャイズビジネスと言われるマクドナルドでさえ、ハンバーガー製造システムを作り上げたマクドナルド兄弟は、レイロックからそのハンバーガー製造システムをフランチャイズ化して大きく展開することを提案されても、当初は極めて消極的であったことはよく知られています。

 それでも、ハンバーガーを作って販売するのに「マクドナルド兄弟に依存しない」「効率的に製造販売ができるシステム」というのを作り上げていたことで、その仕組みを展開する権利を他者(レイロック)に売却することもでき、大きく展開することで成功を収めることができたといえます。

 「事業(ビジネス)」は、「顧客がいること」つまり「顧客に何かしらの価値を提供する」ことでしか始まらず、「顧客がいなくなる」ことで成立しなくなるので、最初から最後まで他者との関係を維持しなければ成立していかないものです。その意味では、事業や会社は、その役割としては常に社会性を持った公(パブリック)なものといえます。

 先般、日本でも「会社は誰のものか?」というような議論が発生しましたが、会社の所有(Property)という観点で行けば、「会社」は一義的に「出資者(Investor)」「株主(Share Holder)」が、出資している比率に応じて所有するものです。

常に誰かに所有されている「会社」が運営する「事業」とは常に他者との関係で成立する常に公(パ ブリック)なものですので、その意味では「会社」と「事業」というのは独立した存在といえます。

 ビジネス・スタートアップに成功した初期の段階においては、多くの場合に、「事業」と「起業家(個人)」が強力に紐づいています。そのため、その事業を始めた起業家は、「自分の始めた事業」に対して、「自分の事業」という極めて強い愛着(悪い言葉で言えば執着)を持っていて、「自分自身」と「事業」を切り離して考えることができない場合が多くなってしまいます。しかし、本来的には「起業家」と「事業」というのは独立して存在するものといえるのです。

 起業家が「自分が始めたビジネス」に対しての執着をもつことは、どちらかと言えば、日本のほうがより強くなる傾向があるようです。アメリカで起業している人でもそういたこだわりを持つ人がいないわけではありません。ただ、アメリカの独立宣言が出されたのが1776年で、まだ国自体の歴史も300年もない国ですので、「先祖代々」という形で何百年も成立している事業も存在しませんので、そういった概念はやはり日本と比べればはるかに希薄であるといえるでしょう。

 事業の目的を「売却(EXIT)できる状態にすること」とする考え方は、かなりアメリカでは一般的な考え方となっています。

筆者が受講したアントレプレナー研修においては、その講師のほとんどが起業家やベンチャー投資家として実際に事業の売却に成功して、その後の新たな人生の目標として、自分の経験を基にした起業家の育成に携わっている人たちでした。日本でも、そのような起業家研修も多くなってきていますが、数としては、アメリカと比べればまだまだ少ないと言ってよいでしょう。

シリコンバレーなどにおける起業成功者なども、起業に成功してから、事業を完全に売却(EXIT)して、その後、また自分で別な事業を行うというようなことも、頻繁に行われています。日本の起業家が自分の始めた事業を完全に売却してしまって、その後また新たに事業を始めるというような事例は、それほど多くはないでしょう。

 日本とアメリカにおける、起業成功者のその後の方向性の違いというのは、国民性(メンタリティ)の違いというところにも関連していると思われます。たとえば、国の政治の最高権力者が、その職を退いてからのあり方、というのにもその違いを見て取れます。

 日本の総理大臣経験者の多数は、その職を退いたあとも、「総理大臣経験者」として国会に残り、その後行われる国会議員選挙に何度も立候補しては当選し、「総理大臣経験者」の「影響力」を何年も行使しようとする傾向があります。

 これに対して、アメリカの大統領経験者というのは、その後にどこかの選挙に立候補するというようなことはほとんどありません。その後は、政治の第一線からははなれ、別の場所で自分の活動を行っていくことになります。

 起業に成功して、事業を大きくしていった場合にも、同様の傾向があるといえます。

 日本人の場合には、「仕事」と「自分の人生」が密接に結びついていることが多いので、自分の事業の立ち上げに成功すると、その事業に対して非常に強い愛着・執着が発生して最後までその影響力を行使しようとする傾向が強くなります。

 アメリカ人のメンタリティとしては、「自分らしい生き方をする」ために「事業は自分とは独立した存在である」という考え方が比較的一般的なため、自分が立ち上げた事業が大きく育ち、その後生活していくのに充分な金額で売却可能な状態になった場合には、それを売却するということも、それほど躊躇なく行われることが多くなります。

 自分が始めた事業が売却可能なまでに成長したとして、それを実際に売却するか、自分で続けていくか、ということは事業を始めた個人の選択の問題ですので、どちらが正しいわけでも間違っているわけでもありません。ただし、事業とは、それをはじめた個人とは独立した存在であって、「顧客に対して価値を提供し続ける」ということでしか成立しないものです。「顧客に対して価値を提供する」という本来の原則から離れた、個人的な執着による判断というのは、事業にとっては好ましくないものであることを、起業家は常に認識しておく必要があるでしょう。

 事業の立ち上げに成功した人が、「事業を売却する」ということを行うことができるのであれば、事業を始めたい人が「事業を買い取る」ということで、ビジネスを始めることができる、ということになります。

 ビジネスを全くゼロからはじめて、「充分な収益を上げることができる事業」にしていくのには、大変な時間や労力が必要になります。 ビジネスをゼロからスタートさせるためには、

「新規顧客をたくさん獲得する」
「仕入ルートをゼロから構築する」

 など様々な努力が必要になります。こういったことは、一朝一夕にできることではなく、多くの人たちは、この段階で失敗して、継続的な事業ができなくなるというようなことが起こってしまいます。
そのため、ある人が「起業をする」という選択をする際には、「買い取ることが可能な事業」を探し、それを買い取ることで事業を始める、ということのほうが手っ取り早く、しかも確実なビジネス・スタートアップの手段となる場合も多くなります。

 歴史上で「アントレプレナー」として賞賛される人たちの中には、ゼロからビジネスをスタートさせたわけではなく、すでに動いている事業を買い取って(譲り受けて)ビジネスをスタートさせ、その事業を「アントレプレナー的プロセス」で拡大させていくことによって成功していった「アントレプレナー」もたくさんいます。一例を挙げるならば、マクドナルド兄弟から権利を買い取って事業をスタートさせたレイロックなどがそれに当たります。

 世の中には、全く何もないところから「ビジネス・スタートアップ」をして、その後「アントレプレナー的プロセス」に移行して大成功をする人もいます。しかし、それ以上にビジネスをゼロからスタートさせようとして「ビジネス・スタートアップ」自体に失敗してしまうケースや、「ビジネス・スタートアップ」はうまくいったにもかかわらず、その後「アントレプレナー的プロセス」に進むことができない(売却できる事業にならない)ケースも非常が多いのです。

 つまり、「ビジネス・スタートアップ(創業)」と「アントレプレナー的プロセス(事業化プロセス)」というのは本質的には、別のプロセスであるといえます。

 そのため、「すでに売却できる状態」のビジネスを買い取り、その状態からビジネスをスタートさせ、その後に「アントレプレナー的プロセス」に乗って、ビジネスを拡大させていくことを目指す、というやり方も賢明なビジネス・スタートアップのための手段といえるでしょう。

 ある人がビジネス・スタートアップに成功して、その後に推奨されるプロセスは「アントレプレナー的なプロセス」で、「起業家自身にも依存しない」システム化した組織となります。

 事業が属人的にならず、システム化した状態になったときの、「理想的な組織図」を描いてみることで、現在の状態から、その状態に移行するために何をしなければならないか、ということが明確になります。

 これまで、あまり組織図が必要なほどの大きな組織に所属した経験がなく、組織図自体が思い描けないような場合には、自分が行おうとしている(あるいはすでに行っている)事業で最大手の会社の会社案内を取り寄せたり、ホームページに書いてある組織図を参考にしたりするなどして作ってみることになります。

 「最大手の組織図を模倣してみる」、というと

「絶対にそんなところまでは無理」
「大手のやるようなことは目指していない」

というような反応になることがあります。そのような場合には、それよりもサイズの小さい組織図を書いてみることで、どのサイズの組織図が自分にとっては理想なのかということを考えていくことになります。ただ、起業家が達成できる目標は、多くの場合、自分が以前に思い描いていた目標よりも小さくなりがちですので、できるだけ目標は大きく考えておいたほうがよいとはいえるでしょう。

 ビジネス・スタートアップに成功して、次の目標を設定するために、この「理想の組織図」を書いてみるということを行った際、特に、起業家自身が顧客に価値を提供する「専門職的なプロセス」で事業を行っている場合には、

「今のサイズのビジネスが大好き(十分満足)で、それを拡大する気にはなれない(モチベーションがわかない)」

というような場合も多々あります。その場合は、自分が「今のサイズのビジネスが好きだ」、ということを認識して、そのまま進めばよいのです。

 しかし、スモールビジネスがスモールビジネスであり続けるような場合、次の目標を全く設定せずに「漫然と今の仕事をこなしている」という状況であることが多いものです。それによってスモールビジネスならではの問題も起こりやすくなってしまいます。そのため、この「理想の組織図を描いて見る」ということは、節目、節目で行っておくべきことでしょう。

 「理想の組織図」を書いてみることによって、起業家として「アントレプレナー的なプロセス」で事業を拡大させていくことが目標だ、ということが確認できた場合には、組織図内の組織が起業家自身にも依存しない組織となるように、事業をシステム化し、拡大していくことになります。

 ビジネス・スタートアップの成立後、「アントレプレナー的なプロセス」に進まず、「専門職的なプロセス」で商品・サービスを提供して、ビジネスを続けていくことも、ひとつの選択です。ただ、そのプロセスを選択した場合に起こりやすい問題点もあります。簡単に整理すると、たとえば、以下のような問題が起こりやすくなります。

・商品・サービスの品質が安定しない
 「専門職的なプロセス」での商品・サービスの提供というのは、属人的な要素(個人の気分、感覚、主観など)に左右されやすく、顧客に提供する価値が安定しにくい。ビジネスが継続的に存続するためには、「顧客が期待する価値」を正確に知り、それを確実に満たしていくことが求められるが、それを正確に把握しないまま、感覚的で漫然としたサービスの提供となるため、顧客からの評価が得られにくい。また、キーパーソンが何らかの要因でいなくなってしまうと、事業自体が危機に陥ってしまう。

・商品・サービスの提供に物理的な限界が発生しやすい
 提供している商品・サービスが評判となり、顧客数が増えた場合に、属人的なビジネスを行っていると、対応できるリソースがないため、受注を制限せざるを得なくなる。単に人を増やすことでは、生産量を上げることができない。また、リソースに限界があるため、たくさんの仕事を自分で行わなくてはならなくなった際、忙しすぎて「本当にこんなことがやりたいのか?」が分からなくなる。その状態が続き、「休みたい」と考えたとしても、思うに任せない状況になっている

・事業が売却できない、後継者ができない
 行っている事業自体が、個人と協力に紐づいてしまっているため、事業の売却がきわめて難しい状態となる。提供される商品・サービス提供がきわめて属人的で「勘と経験」などを基にしてなされるため、後継者を作ろうと思ってもそれが思うように継承できない。

もちろん、「アントレプレナー的なプロセス」に進んだ場合にも、これ以外のさまざまな問題は多く起こるものです。しかし、日米を問わず、企業全体のうちの90%以上がスモールビジネス(中小企業)という形で存在しています。そして、これらの多くが、確な目標や方向性を持たないまま「専門職的なプロセス」で属人的に商品・サービスの提供が行われていて、同じような問題を抱えているのです。そのため、目標設定のために、できるならば「理想の組織図」を設定し、その状態の実現に向けて、「アントレプレナー的なプロセス」で組織化・システム化し、売却可能な状態にまで発展させていくことが望ましいといえるでしょう。

 起業家がその目標設定をするときに「理想の組織図」を描くわけですが、このときに注意しなければならないことがあります。それは、組織図のトップは「経営者(社長)」のポジションではない、ということです。

 起業家が「理想の組織図」を描く際には、「経営者(社長)」の上に点線を引き、その上に「株主」というポジションを必ず記載しておかなければなりません。

 起業家はビジネス・スタートアップに成功して、その後に「アントレプレナー的なプロセス」によって、属人的でないシステム化・組織化された事業にすることで、「売却可能な状態」を目指すことになります。

 「事業を売却したい」とき、「経営者」というポジションが「起業家自身」でなければならない、つまり、経営が起業家に依存している場合には、まだまだ属人的な状態であって、目標としていた状態とは違う状態となってしまします。つまり、「経営者」というポジションで仕事をすることも、ある意味「専門職的なプロセス」であるといえます。会社の「経営者」というのは、株主総会で承認を受けて経営を委託されている存在であって、「株主」に対して十分な配当が用意できないような場合には、解任を要求されたりするポジションなのです。

 そのため、起業家が「アントレプレナー的なプロセス」を経て目指すポジションというのは、「経営者」というポジションではなく、自分自身が「経営」を行わなくても回転するようになった事業の「株主」というポジションであることが分かります。

 アメリカでは、MBA (Master of Business Management)を取得した「経営管理の専門職」についての見識を持った人も多いですので、「会計・経理」の専門家である会計士・税理士を探すのと同様に、「経営職」の専門家というのを探すのがそれほど難しいことでもないので、そのポジションを起業家自身ではなく、他の人に任せてしまうというあり方も、それほど珍しいことではありません。

 優秀な起業家というのは、商品・サービスについて素晴らしいアイデアがあって、高度な技術的見識や行動力を持った人であることが多いのですが、その場合、必ずしも「経営者(CEO=Chief Executive Officer)」というポジションである必要はありません。「経営者」というポジションを他の人に委託した上で、自分は「技術部門長(CTO=Chief Technical Officer)」を務めるというあり方もあってよいわけです。むしろ、そのほうが「顧客に対して提供する価値を最大化する」という企業本来の目的を達成しながら発展していくためには、合理的なケースというのも多くなります。

 起業家は、ビジネスのスタートアップの段階では、「お金」が不足しているケースが多くなりますので、それを補うために誰かに出資してもらうような場合には、起業家が「株主」というポジションを得られないこともあります。「株を持っていない」「経営者」として経営を行っている場合には、経営の結果が出ない場合には、「株主」という存在から、その座を追われる可能性もあることを常に認識しなければならなくなります。

 日本では、勤労者人口の多くが「サラリーマン」として生計をたてているので、その立身出世の最終目標が「上場企業の社長」ということも多くあります。しかし、「社長(経営者)」というポジションも、全く株を持っていないような場合には、「株主」の意向に従属的で不安定なものです。「会社」は本質的には「株主の所有物」であって、「経営者」は株主の意向に大きく影響されることになります。

 最近は日本でも、上場企業で経営陣とは考え方の違う「ものをいう株主」として投資ファンドなどから敵対的な買収を仕掛けられ、その結果、株主総会で経営者の留任の決議が否決されるようなニュースも目にするようになっています。これまでの日本の上場企業では、大手上場企業同士の「株式の持ち合い」などによって、取締役会の意向に近い会社が大口の株を保有していて、株主総会で取締役会と対立するということが少なかっただけで、本質的な部分では最終的には株主の承認を経なければ、経営権の執行ができないものです。

「アントレプレナー研修」でゲストスピーカーとして登場する起業家や、実際に起業家として成功した人によって書かれた文献などでは

「起業家は株主総会の議決権の51%以上を死守すべき」

という見解が示されていることが多くあります。

 起業家は、初期の段階では、「ヒト、カネ、モノ」等のリソースがすべて不足していることが多く、特にビジネス・スタートアップ時点での「カネ」の部分を投資家に助けてもらうということも多くなります。その場合、株主総会の議決権の多くを投資家に渡すことになります。

 投資家から投資を受けて事業を始める起業家は、経営がうまくいかなければ、その経営責任を問われることになります。逆に、事業がうまくいった場合にも、投資家と起業家との間には問題が起こりやすくなります。

 事業がうまくいけばいくほど、投資家はその事業で得られた事業所得からの配当を多く求めるようになります。また、起業家のアイデアと実行力によって拡大した事業であったとしても、株主と起業家の間に意見の対立等が発生する場合には、株式の保有比率の高いほうが株主総会での議決権を持つことになりますので、通常は投資家のほうの意思が反映されやすくなります。株主と経営者の意見対立が激しい場合には、起業家は株主による議決によって、その会社から追放されてしまうようなことも起こってしまうのです。

そのため、起業家が事業を行うにあったって目指すべき目標とは、

・「アントレプレナー的なプロセス」によって事業をシステム化しながら売却可能な状態に育てる
・経営の意思決定の自由を確保するために、株主総会での議決権を維持する

というようなこととなります。

ある人が「起業する」という場合に、その目的は様々ですが、ある人がこれまで勤めていた会社を辞め、起業するという決断をするとき、その動機として「自由な人生を送りたい」というような場合も多くあります。特に日本の大企業などでは「年功序列で若い人の意思が全く反映されにくいシステム」や「自由に休みがとりにくい風土」などが強いため、起業の動機に「自由」を求める人の割合も多いでしょう。

しかし、「起業」をしたからといって、すぐに真の意味で「自分の自由意思」で、すべての物事を決定して行動ができるようになるわけではありません。

「起業」をして、会社の「オーナー兼経営者」という状態で事業を始めたとしても、行っている事業の顧客が少なく自分の事業所得のほとんどを少数の顧客に依存してしまっている状況の場合には、どうしても顧客には従属的な関係を強いられやすくなります。

また、自分自身が「専門職的なプロセス」で仕事を行っている場合には、自分が働き続けることで収入も多くなることになります。そのため「自分の時間」をお金に換えるような形となりやすく、そのトレードオフとして、「自分の自由」を奪われていくことになりやすくなります。

自分自身は「オーナー兼経営者」というような形で存在し、十分な数の顧客がいて事業が回っているような場合でも、きわめてサービス提供能力の高い社員(スタープレイヤー)による属人的な処理能力に依存していて、その社員が何らかの事情でいなくなると、急にサービスの質が低下してしまうような場合にも、「スタープレイヤー」に主導権を握られてしまっている状態です。

自分のビジネスを少数の仕入れ先からの仕入れのみで成立させてしまっているような場合にも、仕入れ先から条件を変えられてしまうことで危機に陥ってしまうことになります。

誰かに出資をしてもらい、「経営者」として事業を開始し、その結果、事業がうまく回り始めたとしても、自分の株式の保有比率が半分以下の場合には、完全な自由意思での経営が行えるようになるわけではありません。

このように、起業し事業を進めていく場合に、「顧客」「従業員」「取引先」「株主」など、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら、起業家自身の「自由」が制限されるようになります。

起業家が起業をして、真の意味で「自由」に会社を運営できるようになるためにも、「株主」として事業を保有し、顧客獲得のための継続的な努力を行い、その上で「アントレプレナー的なプロセス」で事業の様々な部分をシステム化(属人的な部分を少なく)しながら、いつでも売却可能な状態を目指していくほうが望ましいといえるでしょう。

 新規に事業を始める際に、「理想の組織図」を描き、事業を売却可能な状態に育てながら、「株主」のポジションを目指して進むべき、といっても、それはそう簡単なことではありません。

 もし、たった一人で起業をする場合には、その事業の組織図のすべてを「自分」という一人で担当することになります。時には、最終的に目指すべき「株主」というポジションだけが「他人」で、組織図上のそのほかのポジションが全部「自分」という、本来アントレプレナーが目指すべき組織図とは全く逆の状態から始めていくことになります。

 ビジネスをスタートさせ、それを拡大させていくプロセスというのは、基本的には、以下のようなプロセスの繰り返しでなされることになります。

 「顧客に価値(商品・サービス)を提供する」
 「顧客から正当な対価を受け取る」
 「従業員や仕入れ業者に対して対価を支払う」
 「起業家自身が報酬を受け取る」
 「必要なリソースに再投資する(事業に対して資産性の高いもの)」

「専門職的なプロセス」に進むにしても「アントレプレナー的なプロセス」に進むにしても、起業が成功するためには、

「顧客に価値(商品・サービス)を提供する」
ことが最初に絶対に必要ですので、ビジネス・スタートアップの初期の段階においては、この部分のプランニングをしっかりと行うことになります。(次章を参照)

 商品・サービスの開発に成功して、顧客から十分な対価を受け取り、利益を確保できるようになったときに、起業家としての志向性の違いが大きくなることになります。

 「専門職的なプロセス」で事業を行っている場合には、利益が出るようになった際、その収益の多く(ほとんど)を自分の報酬として受け取ろうとする傾向があるようです。(モラルがきわめて低い人の場合には、利益をごまかして脱税のようなことを試みてさらに報酬を受け取ろうとする場合もあります。)確保できた利益のほとんどを「起業家自身の報酬(事業性の低いものへの消費)」にしてしまうような場合には、事業を将来に向けて発展させるために利用できる資金は少なくなります。そのため「アントレプレナー的なプロセス」での発展の加速度がどうしても遅くなり、スモールビジネスにとどまりがちになります。

 事業によって利益が確保できるようになった場合に、それをどのように処理するか、は起業家自身で自由に決めることですが、「アントレプレナー的なプロセス」を目指すのであれば、目指すべき状態に向けて会社の資産性を高めていくような努力を常に行っていくことになります。

 ある人が「起業をする!! 」という決断をするとき、その決断はその人の人生そのものに関わる大きな決断であることがほとんどです。そのため、起業をする際には、その決断が本当に自分にとって適切な決断であるかということを再度考える必要があります。

 事業は、「顧客がいること」がスタートさせるための絶対条件で、顧客に対して、何かしらの「価値を提供し続けながら、お金を受け取り続ける」ことができて継続していくことができるものです。そのため、起業することの動機が「顧客(社会)に対して価値を提供する」ことに対しての強い動機付けがない場合には、失敗しやすくなります。

 たとえば、サラリーマンとして生活をしていて、会社に対しての「人間関係」や「収入」などに不満を持っている人が「起業したい」と考えることがあります。しかし、これは正確には「自分の不満を解消したい」のであって、「起業したい」のではありません。「自分の不満を解消する」のに「起業する」という手段をとる必要はないのです。

 このような動機で起業する場合には、「顧客(社会)に対してどんな価値を提供するのか?」ということが全く考えられていないことも多くなり、往々にしてうまくいかないものとなります。このような状態であれば、むしろ「起業する」という行為自体を控えたほうがよいといえるでしょう。
 
 「起業する」に当たって、「顧客(社会)に価値を提供する」ことに対しての強い動機付けがある場合にも、「自分が起業する」という形態をとる必要がない場合があります。特に、自分自身に高い専門性があり、どちらかと言えば「専門職的なプロセス」で起業を行いたいと考えている場合がそれに当たります。ある人が「起業する」と、様々なこまごまとした事務作業が発生するものですし、発生するトラブルをすべて自分の責任で処理していく必要があります。「専門職的なプロセス」で自分が仕事を行いながら「顧客(社会)に価値を提供する」という動機が強い場合に、そのようなことを行っている会社に従業員として参加するなどすることのほうが、より自分が好きな専門的な事柄に集中することができますし、安全に事業を行うことができることができることも多いのです。

 起業して、「専門職的なプロセス」で事業を行っていくのも、「アントレプレナー的なプロセス」で事業を行っていくのも、どちらも「顧客(社会)に価値を提供する」ということを行っている限りは、正しい起業(ビジネス・スタートアップ)方法です。そして、どちらを選ぶか、というのは、起業家自身が選択することです。ただ、ある人に「起業したい!! 起業する!! 」という感情が湧き上がっているとき、その目的が近視眼的である場合が多くなります。そのため、どのプロセスで事業を行っていくうえでも目的を明確化し、事前に適切にプランニングを行っていくべきといえます。

 次の章では、起業家のためのビジネスプラン作成のためのガイドラインを考えていくこととします。






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