誰かが「起業」を考えるとき、特にこれまでサラリーマンで高度な技術系専門職についていた人などが独立してビジネスを始める際、よく失敗してしまうケースとしては、
「これまで自分がやってきたこと」
だけをベースに考えてしまうことがあります。たとえば、これまで大企業で長年優秀なプログラマーとしてやってきて、それと全く同様の仕事を独立してやっていくというようなケースなどです。
日本の大企業などでは、その役割がかなり細分化・専門化されているので、そこでの仕事も、ある限られた分野に非常に複雑な内容となっていたります。そのため、そういったところで長年やっていた人たちが、いきなり独立して生活していこうとする(生活していかなければならなくなった)場合に、これまでやってきたことから頭を切り替えることが難しいことが多いようです。
しかし、特に技術的な専門性が高い分野での仕事を行っている場合には、その分野で起業しようとすると、起業をするための必要条件である「客がいるか? 客がいるか? 客がいるか?」という検証作業を行っていくと、結局「客がいない」という結論になってしまうことが起こってしまいます。今現在、高度な技術的な専門職としてある大企業で働いている人が、今現在行っているような仕事をもっとも高く買ってくれるのは、結局今働いている大企業だということの可能性が一番高いのです。
「起業する」上で、もっとも大事なことは、何度も言うように「客がいること」です。「客がいない」場合には、ビジネスが成立しないのです。そのため、「起業」の段階では、自分が「これまでやってきたこと」ではなくて、まず「売れること」に着目して、ビジネスをはじめて構築していく必要があります。
アメリカでも、IT関係の専門性の高い職能を持った(持っていた)人が、ITバブルの崩壊以後その分野で起業しようとしても、結局顧客から価値を見出してもらえるような商品・サービスを作り出すことができずに廃業してしまう、というようなことは多く起こっているようです。
このことは「これまでやってきたこと」ではなく、自分に「やりたいこと」があって起業する場合でも同じことです。起業する際に、自分の「やりたいこと」に夢中になって計画を進めても、もしそれを「買ってくれる人」がいなければ、結局のところ事業としては成立しなくなってしまいます。「やりたいこと」が先にたって起業をするようなとき、自分も周囲の人も「面白い」という確証を得ている場合もあるでしょう。しかし、新規事業のところでも説明をしたとおり、人が「面白い」と感じることと、「お金を払って買う」ということは、必ずしも連動はしません。むしろ、あまり相関関係は高くないと言ってしまってもよいかもしれません。
このように、起業というのは、「これまでやってきたこと」でも「やりたいこと」でもなく、まず「売れること」「顧客がお金を払うもの」でなくてはならないのです。