顧客は最初、極めて「懐疑的」である







 起業前には、多くの人が自分にとって「虫のよいこと」を考えてしまいがちなのですが、これは新規顧客に関しての前提が「楽観的すぎる」ことも原因としてあります。

 あなたは、「全く初対面の何かの“営業活動を行っている”他人」が自分に近づいてきたとき、どのような感情を抱くでしょうか?

 多くの人は、「怪しい」「ウザイ」「来るな」というようなネガティブな感情を強く抱くはずです。つまり、最者の段階では顧客は懐疑的(Skeptical)で、マイナスな感情を持った状態であるという前提でなければならないのです。

 この傾向は、アメリカ人より日本人(特に都会在住)に非常に顕著になります。日本人は、同じ日本人同士であったとしても、何らかの「よそもの」に対して、懐疑心の強い冷淡な態度をとる人の割合がアメリカ人よりも多くなります。そのため、「上司や初対面の人に対してエレベーターの中で親しく話す」ということが前提で行われる「エレベーターピッチ」というのも全く行われないのです。

 アメリカで何らかのビジネスコミュニケーション関連の研修などを受けた人であれば、「エレベーターピッチ」という言葉くらいはほとんどの人が知っていて、日本人でも知っている人の数としても案外多いはずなのですが、日本人向けの研修にあまり積極的に取り入れる機運が生まれないのは、日本人のコミュニケーションが、初対面の人に対して「極めて懐疑的」に行われることも理由として挙げられるでしょう。

 全くの「初対面の他人」に対してのコミュニケーションの障害が日本と比較すると少ないアメリカにおいてさえ、「“営業活動を行っている”初対面の他人」、に対しては、極めて「懐疑的(Skeptical)な態度をとられる」ところから、起業家は活動を始めていかなければならないのです。

 その意味で、起業家にとっての「エレベーターピッチ」とは、「“営業活動を行っている”初対面の他人」の中の“営業を行っている”という部分、「人々に極めて感情にネガティブに働きかける」要素を取り除くための技術でもあります。

 多く人が「初対面の他人」から営業されることに対してネガティブな感情を抱いてしまうのは、「自分が全くほしいとも思っていないにも関わらず営業をしてくる」、からです。営業されている人から見ると、自分は適切なターゲットでもないのに、時間や労力、時にはお金も使わされることになるから、営業をされることが嫌いなのです。

 通常、エレベーターピッチでは、「こういう人たちに向けて(Why You?)」の部分を含めることを推奨していますから、それを聞いた「対象でない人」たちは、自分が対象でないことを理解して、「面白いね。(Interesting!!)」などと答えて、一般的なコミュニケーションとして、話を続けていけることになります。

 ただし、日本人は「営業活動を行っているわけでもない初対面の他人」に対しても、懐疑的な態度をとりやすい傾向がありますから、その意味で、起業家のためのビジネス・スタートアップの環境はより厳しいといってもよいでしょう。

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顧客の発展過程(マイナスからのスタート)






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