大企業や官公庁を顧客として想定するリスク







 起業したての会社や、スモールビジネスを営んでいる会社が獲得したい顧客として、「大企業」や「官公庁」といったところを想定する場合があります。しかし、そのような顧客を獲得するということにも、実は多くのデメリットがあります。何度も言うとおり、理想の顧客とは、

「ありがとう」と言いながら(こちらに感謝したり喜んだりしながら)、利益のでる金額を何度も支払ってくれる顧客

なのですが、多くの場合、大企業や官公庁は、感情がきわめて希薄で、無機質な行動をとるからです。

 ビジネス・スタートアップにおいては、あなたから「買いたいと思って、買うと決める」顧客さえいればビジネスは開始でき、その点においてスモールビジネスのコンサルタントなどがよく口にするUSP(Unique Selling Proposition)は必須ではない、ということを説明はしましたが、大企業や官公庁を相手にする場合には、これが必須になります。なぜなら、大企業や官公庁では、「買いたいと思う人」と、最終的に「買うと決める人」が違う人間であることが多いからです。

 個人が購入を決定する場合には、「買いたいと思う人」と「買うと決める人」が一致しているので、それほど論理的・合理的な理由はなくとも、「買う」という直接のアクションにつながることも多いのですが、大企業や官公庁の場合にはそうはなりません。ある部門の担当者が、「この製品・サービスがぜひほしい」という感情になったとしても、その商品を購入するために、上司や経理部門などからの承認が必要になるからです。最終的に「買う」という判断をするための説得には、合理的な理由が必要なのです。

 大企業や官公庁(特に官公庁)では、大きな金額の購買の場合、通常は見積もりを2社以上から取り、比較検討したうえで「有利な条件を提示したほう」からの購入を決定します。そして、ほとんどの場合、それを決定するためのほぼ唯一の条件(Unique Selling Proposition)は「価格」です。そのため、無機質な価格競争に巻き込まれやすくなります。

 大企業・官公庁や、中小企業・個人のどちらにも対応ができるような商品サービスを提供している場合、同じ金額で大企業や官公庁に見積もりを出してしまうと損をしてしまいます。なぜなら、「買いたい」から「買う」という決断をするまでの、合理的な理由を説明するまでに非常に多くのドキュメントの作成や、営業活動をする必要が出てくるからです。

 また、大企業や官公庁の場合には、基本的に代金の支払いが後払い方式となるため、資金繰りを考えなければならないスタートアップ直後には、確実に発注があるかもわからない段階から、相当な負担を強いられることになるからです。

 大企業や・官公庁は、多くの場合には、感情のない極めて無機質で不安定な顧客となりやすいものです。起業の対象顧客としての顧客ターゲットをそこに絞ったスタートアップというのは、大きなリスクを負うということは、知っておくべき事柄となります。

次ページ
起業前には、「虫のよいこと」を考えやすい






次ページ
起業前には、「虫のよいこと」を考えやすい

起業関連本