少数の客に依存しないビジネスを選択







 理想の顧客とは、

「ありがとう」と言いながら(こちらに感謝したり喜んだりしながら)、利益のでる金額を何度も支払ってくれる顧客

なのですが、現実の世界では当然そのような顧客はそれほど多くありません。実際には、レベルの低いクレームをつけてきたり、価格を値切ってきたりする「いやな顧客」のほうが圧倒的に多く、理想的な顧客だけを相手にビジネスをするというのは難しい話です。

 このような、「理想的でない顧客」は絶対になくすことはできないですが、それでもビジネスを軌道に乗せるためには、「理想的な顧客」を増やしていく努力をしていかなければなりません。起業または新規事業に参入し、その不安定さを解消していくためには、さまざまなタイプの顧客から発注が受けられるように志向していくほうが、その後の環境の変化には対応しやすくなります。

 ビジネスのスタートアップに成功し、商品・サービスの質を向上させ、顧客の数が増えてくると、一般的には「理想的な顧客」の数も少しずつ増えてきます。「理想的な顧客」が増えてくれば、「理想的でない」顧客や「いやな顧客」への対応を意図的に改善したり、切り捨てたりしながら、ビジネスを存在させていくこともできるようになります。

 たとえば、飲食店を行っていて、顧客から評判になった場合には、「完全予約制」や既存顧客からの招待制による「一見さんお断り」のような形をとることができるようになったりする例がそれにあたります。

 ビジネスのスタートアップでは、「顧客がいること」が必要なのですが、その顧客がきわめて少数の場合には、実際にビジネスをスタートさせることはできても、その後、顧客が増えない場合には、その存続を少数の発注元に依存せざるを得ませんので、顧客が「理想的でない」場合や「いやな客」の場合でも、その状態を甘んじて受け入れていかなくてはならなくなります。

 日本では特に、大企業や役所を辞め、「もとの勤務先から仕事をもらう」ことを前提にビジネスを始めることも多いですので、そういった場合、そのリスクを認識しておかなければなりません。

 「少数の顧客から大きめの仕事を請けながら回していくビジネス」

というのは、根本的な構造として、発注側と受注側が対等な関係になりにくく、発注している顧客にきわめて強い依存関係になりやすいのです。ビジネスの環境は日々どんどんと変わるものですので、その中で、大手の顧客に依存するようなビジネスは、発注元が急に態度を変える、というようなことも多いため、非常に大きなリスクを抱えることになります。

 最近、日本でよく見かける例としては、官公需に依存した建設業を行っている企業などにおいて、きわめて危機的な状況に陥っている事例を多く見かけるようになっています。「大きな金額を発注してもらえる」というメリットがある場合でも、それがために「顧客数が少なくなる」ということはリスクであることをしておく必要はあるのです。

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大企業や官公庁を顧客として想定するリスク






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