アメリカでの起業家向けの研修では、有名大学のMBAのEntrepreneurial Study であろうと、民間のコンサルティング会社のビジネススタートアップセミナーであろうと、絶対に行うことがあります。それは、「エレベーターピッチ」と呼ばれるものです。
「エレベーターピッチ」とは、エレベーターの中である初対面の人と会ったとき、エレベーターに入ってから目的の階にたどりつくまでの間のわずかな時間(数十秒から1分以内)に、自分のやっていることを過不足なく説明し尽くすためのプレゼンテーションのことです。
アメリカの大企業の社員教育などでも、非常に忙しい上司に自分の企画をエレベーターの中で過不足なく説明するためにこういう技術をみにつけることをプログラムに入れていることもありますが、目的がより切実なため、使用される頻度としては起業家のコミュニティの中のほうが多いようです。
いずれにしても、アメリカのビジネスの世界では非常に常識的に知られる言葉です。
「エレベーターの中で初対面の人と話すなんてありえないよ」
と日本人の方であれば、考えてしまいますが、アメリカではそれほど珍しくもなくどちらかといえばよくあることだといってもよいでしょう。
当然、「エレベーターピッチ」だからといって、エレベーターの中だけでプレゼンを行うわけではなく、起業家のコミュニティで行われるパーティで初対面の人にビジネスを説明したり、そのほかどこか偶然に初対面の人と話すときに「自分が何をやっているか」を説明したりする際に利用することができます。日本人よりも活発に双方向のコミュニケーションの行われる社会においては、この「エレベーターピッチ」は必須のスキルであるといして受け入れられています。
一方、日本ではこのエレベーターピッチが起業家研修で「絶対に必要なスキル」として採用されていることはほとんどありません。日本国内の起業家研修でこの「エレベーターピッチ」をやらない理由というのはおそらく以下のような理由があるのでしょう。
・日本人はそもそもエレベーターの中では話はしないので実用性がないと判断される
・研修でインタラクティブなトレーニングをやっても盛り上がらない、酷評される
・学生時代からの教育で、相手への説明はできるだけ丁寧なことがよいと考えている
・初対面の人とのコミュニケーションツールの名刺の手法がかなり発達している
しかし、これらの理由は、起業家が「エレベーターピッチ」を考えて、いつでもできる状態にしておくことに関しての本質的な部分での理解が不足していることによって起こることといえるでしょう。