起業家がビジネスをする上で絶対に必要なのは「顧客」の存在です。事業は顧客からお金を受け取ることができるようになって初めて成立しますが、顧客が何の理由もなく自分に対してお金を支払うことはありません。顧客は自分が提供する「なんらかの価値」に対して合意の上でお金を支払うことになります。
そのため、起業家は常に顧客に対して「価値の提案(Value Proposition)」を行っていかなければなりません。つまり、起業家は基本的な性質として、「価値の提案」に敏感であることがきわめて重要な要素となります。
日本語では、お金儲けが非常に得意な人に対して「金の匂いに敏感」というような蔑んだ表現がなされることがありますが、このことに対して肯定的な言葉を用いるならば
「顧客が“お金を払ってもよい”と思うほどの具体的な価値の提案が得意」
ということになります。起業家が提案する価値に対して、顧客が合意に基づいて対価を支払ってくれる限りは、それは正当な取引ですから、それを繰り返してお金儲けをしていくことに全く問題はないのです。
アメリカの起業家研修においては、これまでも何度も説明してきたとおり、そのほとんどのコースで必ず「エレベータピッチ」を作り、それを発表する練習をさせられるのですが、この「エレベータピッチ」こそが「価値の提案(Value Proposition)」のための、最も基本的なスキルとなります。
起業家は、「エレベータでたまたま出会って数十秒しか話す時間がない人」や「サウナやプールで裸の状態で出会った人」に対しても、どんなチャンスが訪れた時にも、その体ひとつで最も効果的で具体的な「価値の提案」ができるべきなのです。
「Value Proposition」という言葉は、アメリカの大学の起業家研修等で行われるビジネスプランコンテスト(コンペティション)や、実際の投資家向けのプレゼンテーションで、パワーポイントの資料のタイトルなどで非常によく見かける言葉です。起業家は、顧客や投資家に対して、積極的に「価値の提案」を行っていく存在でなければならないといえるでしょう。
ある人が起業する場合の商品・サービスの選択において
「自分のやりたいこと」
「自分の得意なこと」
「自分の好きなこと」
というように「自分」を起点として考え、「価値の提案」を行ってみたところ、それが顧客に受け入れられることよって成立することもあるかもしれません。しかし、
「顧客が“お金を払ってもよい”と思うほどの具体的な価値」
というのは、そういった「自分」を起点としていないところに存在していることが多くあります。事業というのは、自分が行った「価値の提案」が顧客に受け入れられることがなければ成立しないものですので、最初の考え方の時点で、まず「自分」ではなく「顧客」を起点に考えていくということが重要なことといえるでしょう。