ここまで、アメリカの起業家研修や関連の文献などでよく言及されるアントレプレナー的な「メンタリティ」や「行動特性」のようなものについて筆者なりにいくつかの要素を考えてまとめてみました。もちろんこれがすべてではないでしょうし、成功した起業家にはここに述べたような要素が少ない人もいるでしょう。
ただ、この章でも述べたとおり、「起業家が実際にビジネスを始めて成功するか?」、はこれを読んだ人同士の論争によって結論が出るものではなく、実際の起業家の行動によって証明されるものですので、これ以上の理屈を並べるのは控えることとします。
もし自分が、社会に対して本質的で大きな価値を生み出すと思われるアイデアを思いつき、自分の足で見込み客と思われる人達に対して直接調査したところ、それは本当にやる価値のあるものという確証があると思うのであれば、あとは実行あるのみ(Just Do It!!) です。
日本では、これまでは企業に社員として入社してしまえば、そこで普通に働いてさえいれば生活するのに十分な報酬は得られ、そして、ほとんど解雇される心配がない社会、極端にいえば「リスクゼロ社会」と考えられてきました。しかし、ここ何年かのうちに環境は大きく変化し、大手企業の突然の倒産、大規模なリストラや派遣切りなど、会社に正社員として入社したとしても、社会に一人放り出される可能性はいつ何時でもある「リスクフル社会」へと変化しつつあります。
ある人が「起業する」と決めたら、その後の決断は当然すべて自分で責任をとる必要があり、それからさらに成功していくためには様々な困難や危機を自分の責任で乗り越えていく必要がでてきます。そのため、これまでの日本の終身雇用的な「リスクゼロ社会」を前提とした場合、「起業する」ということは、リスクが高すぎるギャンブル的な行動ととらえられてきましたが、これからは、その前提が崩れつつあるのですから、ある程度は「自分が起業する」ということも想定したメンタリティを持って行動すべきといえるでしょう。
ここ最近、アメリカ国内でも従来型の大企業が生み出す価値の減退などが顕著になるにつれ、そういった大企業が内部体質として持つ、官僚的な組織(bureaucracy)が問題となっています。そのため、米国内のMBAなどでは、そのような企業価値の創出を妨げる「官僚的(bureaucratic)な組織」をどのように再構築・リストラ(Restructure)し、効果的に価値を生み出すような「アントレプレナー的(Entrepreneurial)な組織」に変化させていくべきか、というようなことも議論されることが多くなっているようです。
そのため、もし自分が今大企業に勤めていて、今後もそこで働き続け、結果として一生勤め上げていくとしたとしても、これからの社会の中では、会社が自分に求めるメンタリティは、「アントレプレナー的なメンタリティ」に近いものになることは、間違いがないでしょう。
つまり、これからの時代は、起業するにしても、一生会社に勤めるにしても、「アントレプレナー的なメンタリティ」を持って生活していったほうがよいのです。