起業家が事業を行っていくにあたって、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」などの財務諸表を読み、正しい経営判断をしながら事業をコントロールできることは絶対に必要なことといえます。
しかし、実際のスモールビジネスの現場においては、財務諸表の意味を理解することができない経営者というのはかなり高い割合で存在することになります。特に、特異なキャラクターでビジネスを作り上げてきた人や、技術系出身者が事業を立ち上げた場合などにそういったことが多くなるようです。
会計や経理といった「お金に関しての仕組み」は、ビジネスを行っていく上では絶対に理解しておく必要があるものですが、一般的にはその仕組みを勉強するのはきわめて面倒なものであるため、それをおろそかにしたまま、営業や商品・サービス開発などの自分が得意な部分(やりたいこと)に集中してしまうことが多くなります。そのようなとき、ほとんどの場合には会計士などにその仕事を「丸投げ」してしまう傾向が強くなります。
しかし、会計や経理といった仕事を「丸投げしてしまったとき」起業家は経営上の重大な危機を内包することになります。起業家が、財務に関しての理解がない、あるいは面倒なために、その機能を他人に丸投げした際に、起こりやすい最悪な問題が、会計担当者などによる「横領」の問題です。
事業がうまくいきはじめたときなどには、お金もたくさん自分のところに入ってくることになると同時に、起業家自身は顧客対応などにリソースを取られることが多くなります。そのようなとき、起業家が会計・経理担当者にその仕事を丸投げしてしまっている場合、その担当者による「帳簿の改ざん」「横領」といった問題が案外高い確率で起こることになります。
会計担当者による「横領」のような最悪な問題は、起業家自身が「財務に関しての正しい知識を持ち、常に関心を払う」ことで防ぐことができる問題ですが、この「財務に関しての正しい知識を持ち、常に関心を払う」ということは、「横領」のような問題を防ぐだけでなく、事業を前向きに発展させていくためにも必要なことといえます。
アメリカの起業家研修では、ビジネスプラン作成の目的を、「投資家に説明すること」に置くことが多くなりますが、「ビジネスの初期投資を依頼する」際にも、「事業を売却する」際にも、投資家とのコミュニケーションの基本となるのが財務諸表となります。また、事業の途中で資金が不足し銀行に融資を依頼するときなどにも、正確な財務諸表が作成され、起業家によって適切に説明されることがなければ、絶対に融資をうけることはできないといってよいでしょう。
起業家がビジネスを進めるにあたって、会計、経理、財務諸表を正確に理解することは一般社会における「読み、書き、そろばん」といえるほど、基本中の基本となる事柄ですので、それは確実に理解し、常に関心を払いながらコントロールする必要があるのです。