正直で誠実であること







 人間として社会で生活していくためには、基本的には誰にでも必要なことではありますが、起業家は「正直」で「誠実」であることが特に必要になります。起業家が事業をスタートすると多様な利害関係者との関係性が発生し、様々な困難や危機が起こりやすくなりますが、そのすべての場面において「正直」で「誠実」であることが求められることになります。

 起業家がビジネスをスタートさせるためには、「顧客を獲得する」ということが絶対に必要になりますが、実際のビジネスの現場においては、事業プロセスの最も基本的な「顧客を獲得する」段階において「虚偽」や「不誠実」な対応が行われることが頻繁に起こることになります。たとえば、

・商品・サービスの表示に虚偽がある(産地、造年月日、商品スペックなど)
・商品・サービスに何らかの重大な欠陥があるにも関わらず公表しない
・自社の情報が正確に顧客に伝えていない
・商品・サービスを販売する資格がないにも関わらず、取り扱っている

などです。

 目先の短期的な利益の獲得のために、このようなことを事業がスタートする初期の段階から「虚偽」や「不誠実」を行ってしまうと、事業を行っている間は常に、それを隠し続けるための「不誠実」を続けなくてはならなくなります。ほどなくして、それが判明してしまうと、顧客からの信頼を一気に失い、事業が存続できなくなるほどのダメージを受けることになります。顧客に対する「虚偽」や「不誠実」が原因で、企業が倒産してしまう例は、最近では日本の食品業界などで頻繁に起こっています。

 また、比較的大きく発展した事業において、資金繰りに悪化するなど、財務的な問題が発生している場合などにも、起業家が銀行や投資家などに対して「虚偽」や「不誠実」を行ってしまうことも多くなります。

 たとえば、年次の決算の報告書に虚偽の記載をすることによって、「追加の融資を申請する」「自社の株価を吊り上げる」などといった行為がおこなわれることになります。こういったことが判明した場合にも、その起業は倒産に追い込まれることになります。アメリカにおける有名な例では、ワールドコム、エンロンといった巨大企業の粉飾決算による倒産などがあります。

 事業を継続していく上で「赤字」や「大きな債務」は事業が倒産に追い込まれる決定的な要素にはなりませんが、「虚偽」や「不誠実」が判明した場合の「社会的な信用の失墜」は、それだけで決定的なダメージをもたらすことになります。このような形で倒産に追い込まれる場合、自分だけでなく周囲に与える負の影響も非常に大きなものになります。

 そのため、起業家は事業を行う最初の段階から、すべての利害関係者に対して、すべてのタイミングで「正直」で「誠実」であることが必要なこととなります。

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