これまで、「ビジネスプランに含むべき内容」「事業を行う際に直面しやすい問題」などを議論してきましたが、起業家がビジネスをスタートする際に、こういった「知っておいたほうがよい知識」というのはたくさんありますが、「知識をため込むこと」だけで、ビジネスがスムースに立ち上がり、成功に結びつくということはありません。
アメリカには、東海岸のハーバード大学や西海岸のスタンフォード大学など世界的に有名な大学はたくさんありますが、それらの大学を優秀な成績で卒業した人が起業したとしても、成功することが約束されているわけではありません。また、日本で入学するのが最も難しいのは東京大学ですが、東京大学を優秀な成績で卒業したからといって、その人が起業したら絶対に成功するというわけではありません。むしろ、大学に残って研究職を続けているタイプの人は、起業すべきでない性格の人のほうが多い、といったほうがよいかも知れません。
近代のアメリカで有名な起業家として、エジソン、カーネギー、フォードといった人たちがいますが、これらの人々は「学歴」という観点でいえば、初等教育しか受けていなかったことが知られています。また、最近の有名な起業家でも、マイクロソフトの創業者のビルゲイツ氏や、アップルコンピューターの創業者のスティーブジョブズ氏は大学に入学はしたものの、正規に卒業はしていないということが知られています。
つまり、成功するアントレプレナーとは、知識や学歴といった要素でのみ作られるものではないということが分かります。
アメリカの起業家研修においても、
「何がアントレプレナーを作るのか?(What makes Entrepreneurs?)」
というような議論は様々なところでなされ、それに関しての論文も様々なものがあります。これについては、当然論理的に厳密な結論が出るようなものではありませんが、「アントレプレナー」としての成功は、「行動の蓄積」によってなされるものですので、その多くで述べられていることとして、
“「アントレプレナー」とは、「知識の蓄積」によってのみなされるのではなく、起業家自身の「メンタリティ(精神性)」や「行動特性」によるものが大きい“
というところに帰結するものが多いようです。
第5章でも述べたように、事業を始めればいつもスムースにいくわけではなく、さまざまな困難にも直面することになり、それらに直面した際にどのようなメンタリティを持ちそして行動をするか、ということのほうが、物事を「単に知っている」ということよりも重要な要素となります。
アメリカの起業家研修などでも、起業する前の人に対しての「メンタリティチェック」というようなことが行われることも少なくありません。この章では、アメリカの起業家研修などでよく言われる、成功するアントレプレナーの「メンタリティ」や「行動特性」について考えてみることにします。