アメリカの起業家研修に限らず、自己啓発系の本やセミナーなどでも一様に求められることですが、起業家は、「前向き(Positive)」で「楽観的(Optimistic)」であることが求められることになります。
起業家は顧客に対して「価値の提案」を行って、正当な対価を受け取っていく活動を行うのですが、顧客は「後ろ向き(negative)」なことや「悲観的(pessimistic)」になるような提案に対して「お金」という対価を自分から支払うことはありません。起業家が提供する商品やサービスが「自分に前向きな効果をもたらす(と期待できる)もの」である場合に、顧客はお金を支払うのです。そのため、その商品・サービスを提供する人や会社に対しても、前向きで好意的な印象の持てるところから選択することになります。
また、顧客相手にだけでなく、株主、従業員などの様々な利害関係者(stakeholder)との関係性においても、起業家は前向きで楽天的な態度であることが求められます。
起業家が多くの従業員を率いて事業を行っている場合に、従業員は「後ろ向き」で「悲観的」なことばかりを言うリーダーには心からの忠誠をつくすことはありません。
また、投資家や銀行が「後ろ向き」で「悲観的な」事業に対して資金を提供することも絶対にありません。
起業家が、ビジネスプランを描くということは、
「起業家とその周囲の利害関係者(投資家、取引先、従業員など)にとっての前向きで楽観的な未来を具体的に提示し、描いた未来に向け行動することを自分自身とその周囲に提案する」
ということです。
ビジネスプランが、前向きで楽観的であればある程、周囲の利害関係者も多く引き込まれていくことになり、逆に、ビジネスプランが「後ろ向き」で「悲観的」というようなことは、絶対にありえない(あってはならない)ことといえます。
起業家が前向きで楽観的でいるということは、特に事業がスムースに行っていない(計画通りに進んでいない)時に重要なことといえます。第5章でも説明したとおり、起業家が「ヒト、カネ、モノ」などのリソースが不足した状態から、事業を拡大していく過程においては、必ず、大きな困難や事業継続の危機とさえいえる状況になることがあり、そういった困難や危機が目の前に出現したときに、起業家が「前向き」な態度をとることができず、「後ろ向き」で「悲観的な」態度に終始してしまったのでは、その困難を乗り越えていくことができません。
起業家は、顧客に対してだけでなく、従業員や投資家その他の様々な利害関係者などに対して、常に「前向き」で「楽観的」な未来という「価値の提案」をおこなっていくべき存在ともいえるでしょう。